「お邪魔します。」
声をかけるとサクラのご両親は人の良い笑顔で迎えてくれた。当のサクラはと言うと、俺が来るのが分かっていたのかあまり驚きもせず、サスケくん、と名を呼んだ。後ろにはサラダがくっついていて、いつかのようにサクラに背中を押され此方に寄ってきた。それを見てこちらから手を差し伸ばすと、サクラが優しい顔で見ているのがわかる。
「サラダ。」
大人しく俺の腕に抱かれているサラダに、やっとこいつは俺の娘なんだと実感が湧く。
『最初だけだよ、怖いのは。』
名前の優しい声が聞こえた。
「来週には出発しちゃうの?」
「あぁ。そのつもりだ。」
「苗字さん、とは?」
「もともと中忍試験までって話だったからな、昨日合格発表を聞いて、お祝いしてきた。来年は妹が修行見ろだとよ。」
そう言うもサクラの欲しがった答えではなかったようで、そう、とだけ答えた。
「苗字さん、サスケくんのこと、なんか良いように利用してるだけみたい。」
サクラの言う苗字さんが名前のことだと気付いて、不機嫌を表に出さないように気をつけて問う。
「?なぜそう思う?」
「さっき、聞いちゃったの、サスケくんと苗字さんが道で話してるの。昔、何かあったのは知ってたけど、それを理由にサスケくんに修行つけて欲しかった、なんて、意外と自分勝手よね。」
背中がすっと冷たくなった。あの時、公道だからと核心に触れる話をしていないのが救いだと思った。
「血継限界だから術者が少ないのは分かってるけど、サスケくんに頼りすぎじゃない?」
何も言わない俺にサクラが続ける。
「ごめんね、サスケくん。私、サスケくんが浮気してるんだと思ってた。ただ、頼られて断れなかっただけなんだね。」
優しいもんね、サスケくんは。そう言ったサクラの言葉と『そうしたら、優しいサスケは断れないでしょ?』という名前の言葉が重なった。違う、俺がたまたま核心に触れる話をしていなかったんじゃない。名前がそうさせないように話を進めてたんだ、と気付く。嘘だと分かってていつもならする指摘ができなかったのも、嘘だと分かってても心が痛むような綺麗な嘘を吐かれたのも、自分とサクラと娘のためだったのだと今更気付く。名前は気付いていたのだろうか、あの時サクラが近くにいたと言うことに。自分は目の前のことで一杯だったのに、前後の行動の辻褄を合わせて俺の言動をコントロールしながら俺を守るための嘘を吐いたのだろうか。
「悪い、お前のことを無下にしたつもりじゃなかったんだ。ただ、同じ血族がまだ生きていると思うと、」
あいつみたいな綺麗な嘘をつこうとするのに、上手くいかなかった。名前はきっと、俺が里を抜けたときからずっと、こうやって大事なもんを守ってきたんだろうな、と感心した。
「いいの、私の考えが甘かったの。苗字さんだって、久しぶりに帰ってきた地に古くからの知り合いがいたら、頼りたくもなっちゃうわよ。それがサスケくんだったらなおさら!」
いい人、なんだろうと思う。旅に出突っ張りの俺を許してくれる人のよさと包容力に甘えて、そこがいいと思っていた。でも今はそのサクラの言葉が汚く、どす黒いものに見えて吐き気がした。