29. 旅の門出

『なるべく急いでみます。』と言った言葉通り、次の週の半ばには名前から目の治療の準備ができたと文が届いた。今回は完全に治るからよろしければ奥様もご一緒に、と丁寧な文字で綴られていて、提案のようでいて強制に感じた。サクラはご両親にサラダを預けて、一緒についてきてくれると言う。何度か訪れた診察室を訪れると、数日会ってないだけなのにひどく懐かしく感じた姿があった。

「よぉ。」

診察室に入って声を掛けると、良かったまだ出発前だった、と安心したように言う。

「春野さんにも来て頂いてすみません。今回で完全に視力が戻る予定なので、1番に見て欲しくてつい。」

そう恥ずかし気に告げる名前にサクラは毒を抜かれたのか、お気遣いありがとうございます、とだけ返した。

「前回から変わったところはありませんか?」

仕事口調になった名前に短くあぁ、と告げる。いつものようライトで目を見て、目を閉じてください、と言われる。ブーンとチャクラを当てる独特の音がして、ほんわかと瞼が暖かくなる。

「特に悪化もしてないみたい。あれから写輪眼使ってない?」
「中忍試験も終わったしな。」

そう言うと、その節はお世話になりました、と律儀に礼を言われる。

「じゃあ治療していきますね。」

医療忍者として気になるのか、あの私も見て構いませんか、とサクラが尋ねる。もちろん、と答えると、じゃあ行きますね、と言ってから治療を始めた。

「中忍試験前、旦那さんに息子の修行、つけてもらいまして。」
「え、はい。」
「今までどんなに長い時間修行しても自分の足で帰って来てた息子が、へとへとで歩けなくなって帰ってくるようになったんです。今までは自分で帰らなきゃって限界まで出来なかったんでしょうね。」

サクラはそうなんですか、と相槌を打つ。なんの話を始めたんだ、こいつは。サクラも驚いているのか気配が動かない。

「それが、修行つけてもらうようになって、限界まで出し切れるようになったからか急に成長しだして。担当上忍の方にも驚かれたんですよ。」
「中忍試験も優勝だったんですよね、おめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます。すみません、自慢したい訳じゃなかったんですけど。でもそれも全部修行のおかげなんだって誇らしそうに息子が言うので、一度改めてお礼に伺わなければって思ってたんです。」

器用に話しながら治療をするところを見ると今回はチャクラ切れにはならない予定らしい。

「お願いしたのが直前だったこともあって、ほぼ一日中付きっ切りで見てくださってたそうで、ご家庭の方にご迷惑おかけしましたよね。」

せっかくの家族水入らずの時間をすみません、なんて塩らしく言う声は俺の知ってる名前じゃなかった。

「そ、そんな!」

サクラの焦る声が聞こえる。

「もし、ご迷惑でなければ、娘の修行もお願いしたいんです。来年、中忍になる、と意気込んでおりまして。まだ下忍にもなっていないんですけどね。彼女もどうやら戦闘タイプなんですよね。誰か1人は医療系だと私も修行見れるんですけど。」

寂しそうな声色はきっと本心だ。上手く本心と建前が混ぜられてて、ほぼ初対面のサクラに見破れる術なんてないのは明らかだった。

「お子さん、大好きなんですね。」
「この前ちょうど旦那さんにも、親バカだ、って言われましたよ。きっと娘さんが大きくなったら、サクラさんも私の仲間入りしますよ。」

ふふっと綺麗に笑う名前の声を聞いて、母親は強いな、と思う。これ言われたら、サクラは多分イチカの修行を見るのもオリテの修行を見るのも機嫌よく許してくれそうな気がした。

「そうかもしれませんね。私のことは気にせず、サスケくんを頼ってあげてください。なんだかんだ、修行中はイキイキしてたから、喜んで受けてくれると思うんです。」

こいつらは俺がここにいるのも聞こえてるのも忘れてるんだろうかと思うほど、勝手に話を進めていたが、サクラ自身に承諾の言葉を言われたので後ろめたいことなく修行は見れるはずだ。

「よし、治療も完了です。」

え、と呟くサクラに、多分手元なんて見てる余裕なかったんだろうな、と推測する。うちはの血が混じってたって医療系には圧倒的に有利なことはないはずだ。それでも医療忍者なこいつはきっとたくさん努力したんだろう。傷をたくさん作って修行から帰って来ていた幼い頃の姿を思い出す。見よう見真似でできるのかどうかはわからないが、それをさせなかったところを見ると、いいですよ、なんて言いつつ手法を見せるつもりはなかったようだ。負けず嫌いな奴。

「っ」

口角が上がったのがバレたのか、膝上を軽く抓られる。普通に痛い。

「サスケくん?」
「春野さん、ここ、座ってください。」
「は、はい。」
「はーい、じゃあゆっくり目開けてみてくださーい。」

俺の肩に両手をのせてそう言う。眩しい光の中でサクラが心配そうにこちらを見ていて、不覚にもドキッとする。よく目を凝らして見ると、前に紙が貼ってあったのと同じ場所に紙が貼ってある。

「見え方、どうですか?」
「あぁ、綺麗に見える。」

そう言うと少し*を赤らめるサクラが見える。それは良かったです、とポンと両手で肩を叩き紙を剥がしに行った名前は、それではお大事に、と告げた。こいつは敵に回したくねぇなとそっと思った。