バレンタインの日に、両手いっぱいに紙袋を下げて帰宅したサスケは心底迷惑、という顔をしていた。
「何これ、どうしたの。」
「バレンタインチョコだとよ。」
こんな食えねーよ、甘いもん苦手だし、とどんと音を立ててリビングの机の上に投げ出した。夕飯を並べたいからどけて欲しい。
「バレンタインって女の子から好きな男の子にチョコあげるやつ?」
「らしいな。」
「…こんなに貰ったの?」
それはサスケを好きな女の子がこの大量のチョコの箱の数いるということで、なぜか急に不安になった。そもそもアカデミーってこんなに女の子いるのか。サスケのことを好きな女の子がこんなに。夕飯の支度の手を止めない私に何気ないようなサスケの声が聞こえる。
「好きなのあったら食っていいぜ。」
そういってキッチンの隅に移動させるサスケをぼーっと眺める。こういうことにはやっぱり疎いなぁ、と苦笑する。もし私が渡したらどうなるんだろう。同じようにキッチンの隅に紙袋にまとめて放置されるんだろうか。
「なんだよ。」
「ご飯、食べる?」
そう聞けば短く、あぁ、と返ってくる。今日はねシチューにしたよ、と言って温めたばかりの鍋からお皿に盛る。私からお皿を受け取って、律儀にいただきますと手を合わせて食べ始めたサスケに、凍り付いていた心がじんわり溶け出す。にんじん、ハートだけど、気づいてるかな。
「サスケ、モテるんだね。」
「さぁ。自分じゃわかんねー。」
そう言いながらシチューを口に運ぶ。手が進んでいる様子を見ると、まずくはないようだ。モグモグとしながら、何か言いたそうにこちらに視線を投げられているのを感じる。これはむしろ気付けと言っているのか。
「お前からは?」
え、というと少し*を赤らめているサスケが目に入る。
「バレンタイン。」
ハートのにんじんをスプーンに取って見つめながら言う。可愛い。計算してやってるのかな。気付いてくれたことに自然と頬を緩ませる。こりゃモテるわ。
「一応ね、カカオ90%のチョコを、」
テーブルの下に隠していた紙袋を差し出す。用意したよ、と続ける前に、さんきゅ、とひったくられた。去年のクリスマスに78%のチョコで甘いと不機嫌になったので、もう苦味しかないチョコを用意しておいた。サスケはいつの間にかご飯を食べ終わっていて、包みを開けて口に運ぶ。
「…甘い?」
いや、食える、と返ってきた。食えるって、美味しいの美味しくないの。
「一口ちょーだい?」
興味本位で言うと1つ口に入れてくれた。
「!にっがーい。」
サスケの食える信じない、と言いながら涙目になりながらシチューで流し込むとくすくすと笑われた。
「サスケが甘いもの苦手っていうのはよく理解した。」
そうかよ、と言って、ごちそうさま、と席を立つと激苦チョコを持って部屋に入っていった。その姿をみて心がじんわりあたたまる。
「私のチョコはこっちには入れられないのか。」
キッチンの隅にある大量のチョコの山を見遣る。近付いて一番上にあった丁寧に包装されたチョコを手に乗せた時、自分の*が緩んだのがわかった。