02. 初恋の人

娘の姿を確認して身の回りを片付けると、あとやることといえば報告書を完成させるぐらいだった。年々悪くなる視力のせいで眼鏡をかけないと報告書が書けない。産休前は医療のスペシャリストとしてバリバリ活躍していたサクラによると、なんとかしたいけど血継限界が関わってるからか複雑なのよね、とのことで治療法は特にないようだった。嫌気がしながらも書き終えた報告書を出しに火影邸へと向かう。平日の昼間だからか下忍やアカデミー生のような子供たちともすれ違う。と、その中にまるで昔の自分かと思うような少年を目にした気がして立ち止まる。メガネはかけていないし、雰囲気しかわからないから実際はそんなに似ていないのかもしれない。それでも向こうも足を止めたことからなんとなく直感があっている気がした。

「サツキー、どうしたんだよー?」

少年のものであろう名前が呼ばれハッとしたように少年が足を踏み出す。俺の横を通り過ぎるときにぎこちなくおじぎをして走り去った。

「まさか、な。」

火影邸へと足を進めるも、頭の中は先ほどの出来事でいっぱいだった。少年の顔が浮かんだかと思えば、カカシに言われた
『名前には会った?』
『息子が出るみたいだよ』
『ルーキーなんだけどね、期待の下忍らしいのよ』
という言葉がぐるぐる回る。そんなカオスな思考のまま火影室の前まできて、見知った気配に心臓がうるさく脈打つ。噂をすればなんとやらだ。

「名前?」

声に反応してこちらを見たそいつは記憶の中の人物とは違って大人びていたけど、どことなく面影が残っている。

「サスケ、」

懐かしい声で俺の名前を呼んだそいつは明らかに虫の居所の悪そうな顔をした。

「帰ってきてたのか。」

そう言って間合いを詰めるとその分後ろに下がろうとする。

「あ、うん。サスケも帰ってきてたんだね。旅に出たって聞いてたから、びっくりしちゃった。」

それは俺がいないことを確認して帰ってきたということなのか、それとも単にいないと思ってたのに会って驚いてるのか。昔と変わらず綺麗に笑って長い髪を耳にかける。

「さっき、俺とよく似た少年に会った。」

自分でもなぜその話題を持ち出したのか分からないが、気づけば口にしていた。一瞬目を見開いて、そう、とだけ言ったそいつに確信を持つ。俺から一度も目を離さない名前に一歩ずつ近づく。

「サツキって呼ばれてたけど、アイツ、お前の息子?」
「っ」

動揺が顔に出ても一瞬で消えるのは忍らしいと思った。ただ体が動かないのか、後ろに下がろうとしなくなったため俺たちの距離は近づいていく。

「今年中忍試験を受けるらしいな。」

壁と俺の間に挟まれて名前は顔を俯ける。その様子に1つの仮定が当てはまる。この距離までくればくっきりと顔が見えた。

「あのときの、子、なのか?」

沈黙。名前は何も言わない。それは俺には肯定としかとれなくて思わず腕を掴む。

「名前!」

少し語気が強くなる。肯定して欲しいのか否定して欲しいのか自分でもわからない。もう一度顔をあげた彼女の目は潤んでいて、覚えているよりもだいぶ低い位置に顔があり、腕を掴んだ手に熱が集まる。

「聞いてどうするの?」

俺が掴んだ手を離しながら冷静に言い放った彼女はやっぱり昔の、記憶の中の人のままだった。強気なところも昔のまま。1人で背負いこむのも昔のまま。変わったようで何一つ変わってない初恋の人を前に動揺する。確かに、自分はそれを聞いてどうするつもりなんだ。

「サスケには大切な人たちがいるでしょ?」

もうそれは俺の質問に対しての肯定でしかなかった。

「名前」
「私が決めたことだから。サスケには関係ないよ。」

苦しそうに微笑むとさっとまた顔が見えない位置まで距離を取られた。

「目、今度治療してあげる。だから、この話はこれで終わりね?」

そう言ってこちらを振り返ることなく去って行った。
呆然と立ち竦む俺を、今彼女が消えた角からやってきたシカマルが見つけ怪訝そうに、入んねーのかよ?、と火影室の扉を指す。

「いや、これから入るとこだ。」
「?大丈夫かよ?」

不思議そうに言う同期に何も悟られないよう、急いで火影室をノックした。