03. もう一人のうちは

木ノ葉病院の症例報告書を持って火影様に報告した帰り、懐かしい気配がした。

「名前?」

私の記憶よりも背が高いし声も低い。でも忘れることのない顔。

「サスケ、」

どうしてサスケが、と頭の中が真っ白になる。そういえばつい先日春野さんが第一子を出産したって言ってたっけ。

「帰ってきてたのか。」

そう言って少し距離を詰めてくるサスケに表情を読まれないよう距離を取る。きっとこのくらいならもう見えないはず。

「あ、うん。サスケも帰ってきてたんだね。旅に出たって聞いてたから、びっくりしちゃった。」

なるべく平静を装って答える。心を落ち着かせようと右耳に髪をかける。落ち着け、私。

「さっき、俺とよく似た少年に会った。」

その一言であっけなく動揺してしまうんだから、私もまだまだだ。絞り出すように、何でもないように、そう、と返す。

「サツキって呼ばれてたけど、アイツ、お前の息子?」

どきっと胸を掴まれたような衝撃を感じる。大丈夫、私の息子かどうかを聞かれただけ。そう自分に言い聞かせる。「なんかサスケくんに似てる?」なんて言ってた人たちも「私父方がうちはなんですけど、血が濃いみたいで、次女も次男も誰かしらにそっくりなんですよ*」なんて言えば納得してくれたじゃない。私以外は知らない事実、大丈夫、と言い聞かせる。

「今年中忍試験を受けるらしいな。」

どこから聞いたのか息子のことを知っているらしかった

「あのときの、子、なのか?」

微かに震える声でそう尋ねた声は思ったよりも近くから聞こえて、もう何年も前に現役を退いていたとはいえ気付かなかった自分に嫌気がさす。やっぱりサスケは賢くて聡くて、それが頼もしくて好きだったけど今は憎たらしい。どうしよう、なんて答えたら、と珍しく動揺している自分がいた。

「名前!」

少し強めに呼ばれ、がしっと腕を掴まれた。思わず顔をあげると思ったより近くにある顔に恥ずかしくなる。逃げようにも後ろは壁で逃げられない。記憶よりも高い位置に顔がある。格段と男らしくなっていて不覚にもどきっとした。だめ、どきっとしてる場合じゃなかった。

「聞いてどうするの?」

冷静になれ、私、と自分を鼓舞し論点を変えてしまおうと思いつく。

「サスケには大切な人たちがいるでしょ?」

だからお願い、もうこれ以上聞かないで。届かないのに必死で願う。

「名前」

お願いだから、優しく呼ばないで。

「私が決めたことだから。サスケには関係ないよ。」

わかってたし覚悟もできてた。まさかサスケが他の人と結婚しちゃうとは思ってなかったけど、でも、それなりに覚悟はしてた。だからもう私のことはいないものだと思ってはくれないものか。少し傷付いたような顔で固まるサスケを見てそっと距離をとる。そうか、この距離はもう見えないのか。

「目、今度治療してあげる。だから、この話はこれで終わりね?」

惚れた弱みなのか、同じ血族として同情しただけなのか、自然とそう声をかけていた。震える足を無理やり動かし角を曲がり切る。すぐに奈良上忍とすれ違ったからあともう少しでも一緒にいれば変に思われたかもしれない。危なかった、と胸を撫で下ろす。そのまま誰もいない演習場まで来て途端に力が抜け座り込む。泣く訳でもなく動揺する訳でもなく、ただ呆然と座り込む時間が必要だった。