12. 広がる距離

サスケが眠る病室へと向かう。あれからまだ目覚める気配はない。病室に行こうにも班員の女の子が付きっ切りで看病しており行けずじまいだった。サスケの顔を見て安心したいのに、自分はそこにいちゃいけない気がして、そっと来た道を引き返す。呪印を封印した時の発熱すら治せない自分に、何ができるのだろうか。
『そんなに心配なら、お前も忍になればよかったのに。』
『サスケに嫌われたくなくて、護れる立場、諦めちゃった?』
いつか言われた言葉がグサグサと傷を抉る。同じようにアカデミーに通ってサスケと1、2を争って忍になれば、今回のことは防げたのだろうか。病室につきっきりで看病するのはあの子じゃなくて私だったんだろうか。そんなぐちゃぐちゃの心理状態で任務に集中できるはずもなく、対象を精神崩壊に陥れて任務に失敗した。任務でヘマをしたのは初めてだった。火影様からもイビキさんからも、少し休めと言われて任務が貰えなくなって、やる事といえば医療忍術の修行だけだった。気が滅入る。その言葉がピッタリだった。残りのチャクラも少ないし休憩、とばかりに座り込む。背後に気配を感じた。

「任務失敗したんだって?」

珍しいじゃないのよ、と飄々とした声が聞こえてくる。

「追い込みすぎました。」

そう答えると、らしーね、と事情を知っているらしく何でもないと言うように返された。

「中忍試験ね、第3の試験まで少し時間があるのよ。」

そうか、まだ試験の途中だったのか、と知る。

「それまでの間、サスケ、借りるよ?」
「借りる?」

顔を上げるとカカシさんはニコっと笑って、修行付けてやろうと思って、と言った。

「サスケ、目覚ましたんですか。」
「さっきね。で、一度家に帰って出かける準備するよう伝えた。」
「出かける準備、」
「本戦まで泊まり込みで付きっ切りの修行。」

サスケは強くなるし、カカシさんに24時間体制で守って貰えるし、すごくいい話だと思った。ぼーっとする私に苦笑する姿が見えた。

「サスケ、先に家着いちゃうよ?いいの?」

ハッとし、どこに力が残っていたのか立ち上がりペコリとお辞儀をすると、瞬身の印を結んだ。

「ただいま。」

小さく呟いて玄関を開けると、昨日までなかったサスケの靴が玄関に並んでいる。

「サス、ケ?」

そう呟いて覚束ない足取りで部屋へと向かう。物音がするサスケの部屋に向かいノックもせずドアを開ける。ガサゴソと荷物を詰めている様子が目に入る。

「どこか、行くの?」

知ってるけど彼自身の口から聞きたくてそう問うと、いたのか、と驚いたようにこちらを見た。

「カカシが修行付けてやるって言うから。」

必要最低限に言うとまた視線を戻して準備を進める。

「体調は、もう、大丈夫なの?」

情けない声で背中に投げかけると動きが一瞬ピタリと止まって、あぁ、と短い返事が来た。

「そっか。」

準備の手を止めないところを見ると、今日中に発ってしまうのだろうと悟ってしまった。忍具やら着替えやら荷物を詰め込んでいる背中に抱きつくと、その動きを止めて名を呼ばれる。目線にある首筋にはあの日見た呪印と封印式がくっきりとついていた。回した手を優しく離されて向かい合う形になる。

「中忍試験の本戦、見に来い。」

いつのまに用意したのか、中忍試験会場のチケットを渡された。顔を上げると、困ったような優しい顔で、それは昔怪我した私を慰めてくれた時と同じ表情をしていた。

「絶対見に行く。」

受け取ってそう言うと、ふっと笑って頭を撫でられた。お腹空いてる?、と問う私に、いや、カカシを待たせてるから、と玄関に向かう。

「いってらっしゃい。」
「行ってくる。」

あんまり修行無理すんなよ、と傷の残る私を見て言うから、それ私のセリフなんだけどな、と笑って返した。

「じゃあ、試験当日な。」

嬉しそうな声が届いたと思ったら玄関の向こうに消えていった。