「おい!」
大きな声で呼ばれて目を開けるとオッドアイなカカシさんだった。は、と意識を呼び起こすと周りは戦闘体制で、ちらりと視界の隅で壁に開いた穴から何人かの下忍らしき子たちが出て行くのが見えた。もしや、これは非常にまずい状況なのでは。
「テンゾウに使いを出してる。安全な場所まで連れてって貰え。」
私を背に闘いながら真剣な声でそう言う。
「分かりました。」
「ブル、こいつを連れてテンゾウと落ち合ってくれ。」
ブルと呼ばれた忍犬はそれはそれは恐ろしそうで、適任だと思った。
「行け!」
そう叫ばれブルに引っ張られるようにその場を後にした。見知った姿を見つけ、念のため写輪眼で確かめて、ブルに頷かれてから声を掛けた。
「テンゾウさん。」
「あ、や!ここに居たんだね。」
名前を呼ぼうとしたのか誤魔化した姿に「うちは名前」だとバレないよう気遣ってくれたのだと気付いた。そういえば、カカシさんも一度も私の名前を呼ばなかった。
「カカシ先輩から一般人と一緒に避難させるよう頼まれてる。」
一般人、か。気遣いは嬉しいけど、複雑な心境になる。
「あの、病院に行っても構いませんか?」
「あれ、どこか怪我した?」
「あ、いえ!私も何か力になりたくて。医療忍術、使えるんです。」
驚いた顔をして、そうだったの、と言い思案顔になる。
「カカシさんには私が勝手にって説明します。」
はは、と笑って、しょうがないか、と1人納得して病院へと向かってくれる。
「ありがとうございます。」
「無理はしないでね。僕が先輩にどやされるから。」
不思議なことをいうテンゾウさんに、カカシさんはそこまで私に興味ないですよ、と返す。
「テンゾウさんもどうかご無事で。」
「ありがとう。」
戦火が飛び交う中へ戻っていった。医療忍術が使えるとは言えあまり実践経験は多くない。軽い外傷の人を引き受けよう、とロビーに寝転ぶ人を診ていく。医療忍者の1人が来たので経緯を説明すると、向こうにチャクラパックがあるから取っておいで、と言われる。なんだ、チャクラパックって。
「君、使ったことは?」
「…ないです。」
驚いた顔をされ、私が治療した人とこちらを交互に見られる。
「ごめんごめん。綺麗な縫合だったから慣れてるのかと。付いて来て。」
そう言って、こういう大人数の患者を診る時のお作法を教えて貰い、ロビーに戻った。ちょうど見知った顔が入って来たのを見て、慌てて駆け寄る。
「カカシさん!」
特段大きな怪我はしていないようで安心してから、何故ここに?と疑問に思う。
「テンゾウから聞いた。」
「!すみません、」
せっかくのご厚意を、と言い終わる前に目の前が緑のベストで覆われる。抱き締められているのだと遅れて理解した。
「カ、カシ、さん?」
いろんな視線が背中に当たって痛い。グッと私を引き剥がして真剣な眼差しを向けられる。
「俺の指示無視するんだから、それなりに覚悟はできてるんだろうな。」
敵と対峙するときのような声で言われ、うっ、と言葉を詰まらせる。背中に当たっていた視線は無責任に散った。
「できてます。比較的軽い外傷の患者さんはすべて、私が診ます。」
ふっと笑って、ごーかっく、と頭をひと撫でして病院を出て行ったカカシさんを見送った。期待のこもった目で待つ患者さんに1人また1人と向き合った。