私たちは幼馴染だった。小さな頃から同じうちはとして育ち、支え合い、恋と気付かぬうちから恋をした。一族虐殺事件のとき私は偶然にも里の外にいた。うちはでは女が生まれると権力者や他の力の強い一族と見合いさせられていた。私も例に倣って大名の息子との顔合わせに向かっていたのだ。5、6歳の子供を1人品定めのために呼び寄せるなんて人としておかしいと思うが、今思えばそのおかげで私は生き延びれたのだ。
「サスケ。」
里に帰ってくるなりうちはの悲劇を耳にした私は真っ先にサスケの元に向かった。目元にはまだ涙の跡があって、あんなに明るかったサスケは鳴りを潜め、復讐する、と暗い声で言い放った。
「そっか。」
それしか言えない私をサスケは何だかんだ側に置いてくれた。たった2人の血族。幼い私たちは無意識にお互いに依存していたんだと思う。一緒にいて当たり前で、離れるなんて考えたことがなかった。少なくとも、私は一度もなかった。
「アカデミーには行かないのかよ。」
そう不思議そうに尋ねるサスケに、私は忍に向いてないから、と言い訳した。
「俺より早く写輪眼開眼したのにか?」
不服そうにゴチる彼に、まだ根に持ってたのか、とちょっと驚く。プライドの高い彼だから許せなかったのかもしれない。
「私は医療忍者になりたいの。それはアカデミーに行かなくてもなれるから。」
そう言って微笑むと、じゃあ俺がお前を守ってやるから俺が怪我した時は頼むな、と照れ臭そうに言ってくれた顔はいつまで経っても忘れられない。アカデミーの話を聞く限りサスケはかなりモテるようで、しかも彼はそういう事に全くもって興味がない様子で、いつか知らない女の子と仲良くなって私のことなんか忘れちゃうんじゃないかと寂しさを覚えることも多かった。それでもアカデミーがない日は二人で一緒に修行したし、同じ家に帰り誰よりも長い時間を一緒に過ごした。忍になったと嬉しそうに額当てを見せてくれた時も、下忍になったと誇らしそうに教えてくれた時も、Cランク任務で怪我して帰ってきた時も、中忍選抜試験に出ると言って何週間も会えなかった時も。いつもお互いがお互いの心の中にいたのは間違いない。そんな私たちの関係が形を変えたのはサスケが里抜けする前日夜。最近様子がおかしかったものの、いつにも増して様子のおかしいサスケに縋り付くと、彼は堰を切ったように感情をあらわにし私を抱いた。
「名前、」
「強くなって、戻ってくる、だから、そのときは、」
「だから、それまで、忘れるなよ、」
意識を手放した私が気がついたのは次の日の夕刻で、翌朝になってその日の夜サスケが里を抜けたと知った。
サスケの同期たちが救出に向かったと聞いたときも私には声がかからなかった。アカデミーを卒業していない、戦闘タイプではない私は木ノ葉崩しで壊滅的な里の医療忍者として残る他なかった。心の穴を埋めるように働き詰めて、ふと体調が悪いなと気付いたときにはすでに妊娠3ヶ月目だった。大好きだったサスケの里抜けを止められず不意に1人になってしまった私は、それはもうボロボロで、偶然身篭った命に縋って生きていくしかなかった。体調不良と気力を失ったことを理由にそれまで勤めていた病院を辞め、里から姿を消した。誰にも悟られることなく1人で産み、1人で育てる。そう覚悟してのことだった。『強くなって、戻ってくる』のはいつのことなのか。数ヶ月後か、1年後か、何年も先なのか。私には全く見当もつかなかった。ただ、誰にも知られず授かった命を育てることに集中して、言われなくとも忘れることなんか到底できもしない想い人に思いを馳せながら、木ノ葉の里に帰るタイミングを探していた。
そして、みんなが憔悴しきった大戦後。約束どおり強くなって戻ったサスケの噂を聞いた。本当に自分の知っているサスケなのだろうかと疑いたくなるような話ばかりだったが、違和感なくシングルマザーで木ノ葉に帰れるのは今しかないとばかりに帰ってきたのだ。サスケが里に戻らず旅をするという噂を聞き、その間に心の準備ができると思ったのも事実。強くなって戻ってくるから忘れるな、という大好きな人の言葉を何年も固く信じて木ノ葉に舞い戻った。