コンコン。入院してどのくらいの時間が経っただろうか。ドアをノックする音が聞こえる。返事もしていないのに、入るよ、と声がかかる。
「よ!」
そう言ってカカシさんが片手をあげる。
「お前もイタチの術にやられてたって聞いて、来てみたんだけど、何があったのよ。」
ベッドの近くの丸椅子に腰掛けながらそう聞かれた。入院してから誰かがそこに座ったのは初めてだった。
「いやー、参っちゃうよネ。俺もイタチの目撃情報聞いて駆けつけたんだけどさ、写輪眼使われて動けなくなっちゃって。」
もう1人はカカシさんだったのか、と今更知る。言葉を発さない私に構わず1人で喋り続ける。
「綱手様が里に戻ってきて下さったおかげで命拾いしたよ。5代目火影様なんだけど、名前も会ったでしょ?あいつは肝が据わってるって褒めてたよ。」
あの豪快なお姉さんは綱手様で火影様らしい。肝が据わってる、は褒め言葉じゃ決してない。
「、」
気を遣ってくれてるのも分かってるし、何か返さなくちゃと思うのに言葉が出ない。
「ご飯、食べてないの?」
目の前の机に乗せられたお盆を見ながらそう言う。悲しそうな声色が痛い。口を開かない私に痺れを切らして早く帰って欲しい、とさえ思う。
「サスケと、何かあった?」
ゆっくりとカカシさんを見ると悲しそうにこちらを見ていた。
「綱手様が、お前をサスケの部屋で見つけた、って。」
あの時の冷たかったサスケを思い出す。今、私がカカシさんにやってるのは、あの時のサスケと同じ失礼な態度だ。
「連れ帰ってから一度も口をきかない、って心配してたよ。」
カカシさんは綱手様に頼まれて来たのか、とすとんと納得する。
「飲み物だけでも飲まない?」
ほら、内緒でいろいろ買って来てみたんだけどさ、とビニール袋からがさがさと何本もジュースを取り出す。その中に一本見覚えのあるパッケージを見つける。あのソーダ、昔サスケと分けて飲んだな。
「名前。」
そう呼ばれた声がサスケの病室を出る前に聞いた声と重なって、涙が溢れる。カカシさんが腰を上げてこちらに寄って来る。
「名前。」
もう一度優しく名前を呼んで、ベッドに腰掛けたカカシさんが肩に手を回した。
「もう泣いていいから。」
肩を広い胸に引き寄せられると、堰を切ったように涙が溢れた。
「うぅ、っ、ひっく、」
みっともなくしゃくりをあげて泣きじゃくる私を抱え、優しく背中を摩りながら、何度も、大丈夫、大丈夫だから、と繰り返す。カカシさんだって困るのに、任務もあるだろうに、と思うけど全く止められなかった。何時間経ったか分からないけど、病室が真っ暗になるまで胸を借りて、いつのまにか意識をなくしていた。