目が覚めるとオレンジ色の光に包まれていた。見渡すと自分の部屋で着衣一つ乱れていなかった。あれは夢だったのだろうか。起き上がって下半身に痛みが走って夢じゃなかったと思い知らされる。そうか、私、サスケと。違和感の残る下半身でよたよたとリビングへと向かう。鍋は綺麗に片付けられていた。
「洗ってくれたんだ。」
しんとした家に、そういえばサスケは?と思い出して、サスケの部屋に向かう。殺風景ないつも通りの部屋で、また朝修行に行ったのかな、なんてぼんやり思う。ぼすっとサスケのベッドに座って昨夜を思い出す。恥ずかしかったけど幸せだったな。*を緩ませて立ち上がり、再び自室に戻る。ふわふわする思考でベッドに再びダイブした。あと5分だけ。瞼が重たかった。
ドンドンドン、という音に今度こそ目が覚めた。あのまま眠ってしまったようで部屋に差し込む光は明るく、ちょっと寝過ぎたな、と反省する。立ち上がると身体の違和感は無くなっていて未だ叩かれ続ける玄関を開けた。
「名前!」
立っていたのはカカシさんで表情から酷く焦っているのが分かった。上がるぞ、と言って私の横を通っていく。
「カカシさん?」
目で追うとサスケの部屋に真っ直ぐに向かう。来たことあったのか、と驚きながらパタパタと追いかける。ガチャ、と声もかけずにドアを開けると部屋の中を呆然と見渡している。
「カカシさん、どうし、」
たの、とは続かなかった。サスケの荷物が減っていた。テーブルの上に何か見つけたのか一瞥して私に渡して来た。
「なに、」
受け取ると姓名変更届と書かれた書類だった。申請者の欄を見ると私の名前が書かれていて、「うちは」から母親の旧姓への変更手続きのための書類が見覚えのある字で埋められていた。「うちは」除籍承認者の欄にうちはサスケと署名されていた。
「なに、これ、どういうこと。」
寝惚けた頭で必死に考えて隣で突っ立つ男の方を見る。
「サスケ、里を抜けたんですか。」
確信を持ってそう問い掛けた答えは返ってこなかった。里を抜けた。分かっていたのに、現実になると受け入れ難い。手に持った書類が震える。
『名前、』
『強くなって、戻ってくる、だから、そのときは、』
『だから、それまで、忘れるなよ、』
断片的にあの晩言われた言葉が思い出される。ストン、と力なく膝から崩れ、私を支えようと咄嗟に出されたカカシさんの手が宙を切った。
「うちはで居させてもくれないなんて。」
はは、と乾いた笑いが漏れた。涙は出なかった。もう一度その書類を見てペンを握り署名欄にひと思いにサインする。ふと提出日付欄が明日になっているのが目に入る。
「里抜けして、この書類が今日見つかるって、分かってたみたいだな。」
その言葉に、あぁあの晩からもう1晩経ってるのか、と気付かされた。書類提出のために火影邸に向かう私に、俺も用があるから、と言うカカシさんと会話もなく向かう。
「失礼します。」
きりりとした声でそう声を掛けたカカシさんに続いて火影室に入る。私たちを怪訝そうに見比べた後、どうした、と聞かれた。
「第7班下忍うちはサスケが今朝未明里抜けしたことを報告しに参りました。」
「なに!証拠はあるのか!」
カカシさんは気まずそうに私を一瞥して口を開いた。
「同じく第7班下忍春野サクラが接触、幻術で眠らされたことを証言しています。」
カカシさんの声が靄でもかかったように遠くで聞こえる。
「音の4忍衆と呼ばれる一隊と音隠れの里に向かっていると見られます。」
「そうか。報告ご苦労。」
それで、お前はどうした、と目を向けられる。
「今回の件を受けまして、姓名変更届を受理していただきたく提出に参りました。」
ひどく冷静な自分がいた。書類を渡すと目の色を変え、いいんだな、と問われた。
「はい。」
「戻したいと言ってもサスケが戻ってこない限り戻せないんだぞ。」
「理解しております。」
「構わないんだな。」
もう一度、そう念押しされたのに、はい、と頷くと分かったと言って受け取ってくれた。
「それに伴って、写輪眼の使用を控えたく、現行の任務を全て取りやめさせていただけないかと。」
綱手様はカカシさんを一瞥する。
「あぁ、いいだろう。代わりの職はどうするつもりだ。」
「素人ながら医療忍術が使えるので、そちらを活かせたらと思っております。」
「わかった。シズネに手配させておく。」
「ありがとうございます。」
「5代目!」
前触れもなくバンとドアが開いて男が入ってきた。中忍試験で闘ってた人だ、とぼんやり思う。
「サスケ奪還任務の承諾を頂きたくて参りました。」
その言葉を聞いてふと肩の力が抜ける。
「それでは私はこれで失礼します。」
丁寧にお辞儀をして火影室を後にした。