俺は物心ついた時から父親という存在を知らない。母さんと妹と弟と俺。4人での生活が当たり前すぎて気付かなかったけど、世間一般ではこれに加えて父親がいるのが当たり前らしい。母さんはそんな俺たちを気遣ってか、俺たちに寂しい思いをさせないよう全力を尽くしてくれている。ずっと家にいるのに何処かからお金は稼いでいたようで、今まで経済的に困窮したことはなかった。俺、妹、弟とちょうど2歳ずつ違うから子育てだって誰か1人をないがしろにしてしまうことだって起こりうるだろうに、そんな記憶がなかったのを何度も疑問に思った。ただ、その疑問は自分がアカデミーに通うようになってあっさり解決した。分身の術を使えばすべて可能だ。母さんは自分では言わないけど、きっとそれなりに腕の立つ忍だったんだと思う。その証拠に俺たちは苗字姓を名乗っているけど、それは母さんの母方の姓で、実際にはうちは一族としての血の方が濃いらしい。その話を聞いたときにはふーん、としか思わなかったけど、木ノ葉でアカデミーに通うようになって「うちは一族」は木ノ葉を代表する血継限界を持つことを知った。母さんも持っているはずだ。見たことはないし、母さんはあまり積極的にそのことを話そうとしたがらないけど。
俺が忍者になりたいと言い出すまで、俺たち家族はひっそりとした山奥で暮らしていた。ご近所さんにはもちろん1人も忍なんていなくて、それはそれは長閑に暮らしていた。誰も母さんの過去を詳しく知らないようで、そこは母さんの故郷ではないというのは明白だった。そんな暮らしをしていた俺が初めて出会った忍が、忍者になりたいと思ったきっかけだった。その人は顔をお面で隠していてよく分からなかったけど、母さんがまだ幼い妹をあやす合間に色々と忍術を見せてくれたり簡単な術を教えてくれたりした。だんだん怪我の数を増やして帰るようになった俺を心配する母さんに、初めて自分の気持ちを告げた時、一瞬悲しそうな顔をした。それで矢継ぎ早に、覚悟はできてるの?忍は格好いいだけじゃなくて危険と死と常に隣り合わせなんだよ、と静かに問うた。きっと他にも秘密がある、と頭の中でサイレンが鳴り響く。言いたくなさそうだから聞かないけど、気になるものは気になる。いつかは教えてくれるのだろうか。
例えば、俺の父親は誰なのか、とか。
母さんはたまに俺の向こうに誰かを重ねて見てる。妹にも弟にも向けない眼差しを俺に向ける。2人は父親と似ていないのかもしれないし、俺だけ父親が違うのかもしれない。何も分からないけど、何度も何度も「うちはサスケにそっくり」と言われ続けるとやはり気になるというものだ。そんな時に出会ったのは、それはそれは俺にそっくり(時系列的には俺がそっくり)な男の人だった。その人も驚いたように歩みを止めて、こっちを見た。もしかして、と思ってしまう。
「サツキー、どうしたんだよー?」
少し離れたところから同じ班の仲間が呼ぶ声で我に帰る。たしかにここまで似てたら街で噂もされるだろう。母さんが面影を重ねてしまうのも無理はない。きっと母さんは俺が尋ねても答えてはくれないだろうけど、俺はどこか根拠のない自信があった。あの人が「うちはサスケ」だ。取って付けたように小さく頭を下げて隣を通り過ぎた。