木ノ葉病院で勤務し始めて3ヶ月、職場にもようやく慣れた。サスケ奪還任務は失敗に終わり任務に就いた忍は痛手を負って帰還した。私はうちは姓を名乗ることを辞め写輪眼に頼るのを辞めた。ようやく普通の医療忍者として生きるのに慣れて来た頃だった。
「うぅ。」
突如吐き気がしてトイレに駆け込んで、ふとこれ何回目だ、と思い出す。最初のうちは食あたりかと思っていたが、こう続くと別の可能性が浮かぶ。
「まさか、ね。」
任務からの帰りに薬局で購入した検査薬を手に一息吐いて結果を待つ。じわじわとマークが滲み始める、陽性のマーク。
「やっぱり。」
妊娠していた。そうとなればこの里にいてはバレてしまう、里を出なければ、と思い立つ。なぜか自然と産む前提で考えている自分がいて苦笑する。不幸中の幸いとでも言うか、医療忍術が使えれば何処でも食べていけるはずだ。でも、どうやって。ぐるぐる考えながら任務をこなしていると、スタッフがざわざわ騒いでいるのに気づく。
「よ!だいぶ医療忍者が板について来たじゃないの。」
里の誉れの来訪で騒ついていたのか。片手をあげて寄ってくるその人にお礼を言いながら近付く。そう言えば、いつも優しく声をかけてくれるのはこの人だったな、ふと思い返す。
「カカシさん、もうお昼済ませました?」
「んーや、まだ。」
何名前が誘ってくれるなんて、明日雪でも降るんじゃない?と嬉しそうに茶化される。そんな嬉しそうにされると普段憎まれ口ばっかり叩いているのをそっと後悔するしかなかった。話があると察してくれたのか、ちょっとお高めの個室のある和食屋さんに連れて行かれた。忘れていたけど、そういう細やかな気遣いをしてくれる人だった。
「んで、どうしたのよ。」
お互いの近況報告が一通り終わったところで、本題に入る。
「私、なんかもう疲れちゃって。何もかも捨てて里外にふらっと旅行にでも行きたい。」
「ふーん。」
あれ、失敗だったかな、結構上手く演技できたと思ったんだけど。
「で、本当の理由は?」
真剣な目でこちらを見た後、気まずそうに目線を下げられる。その姿に、もしかして気づいてるのかな、なんて思ってしまう。
「カカシさんの胸にしまっておいて欲しいんですけど、」
「高くつくよ。」
「あの、」
「冗談だから。こんな時だけ信じないの。」
いつもの減らず口はどうしたの、とちょっと焦った口調で言われて笑みがこぼれる。雰囲気を和ませてくれているようだ。
「できちゃった、みたいなんです。」
伝えると、そっか、とこちらを見ずに言われた。
「なんか、そうなのかなーと思ったんだよね。最近体調悪そうにしてるし、大嫌いな柑橘系買い占めて行く姿見かけたし。」
気にして職場覗いて見れば案の定ってとこだね、と言われた。どちらにしてもその都度声を掛けて欲しかったし、洞察力というか観察力というか、色々さすがカカシさんだ。
「…サスケの子?だよね。」
あぁ、もう、この人は全部わかってる。こくっと頷くと、はぁ、とため息をつかれる。私もつきたい。
「里外って?あてはあるの?1人で産むつもり?」
「だって、里じゃ、バレちゃうでしょ?」
「誰に。」
じっと目を細められる。
「…サスケに。」
「あのね、いつ帰ってくるか、帰ってくるかどうかも分からない奴気遣って自分のこれからの何十年、子供の人生、決める訳には行かないでしょーよ。」
「帰ってくるの。」
これじゃ子供だ、と思ったけど、以前大泣きする姿を見られてしまっているので、もう怖いものはない。
「強くなって戻ってくるから、それまで忘れるなって、言われました、」
それを信じてんのね、と呆れたように言われた。
「ほーんと、サスケのこととなると盲目に全力だよね。ある意味羨ましいよ、そこまで頑張れるの。」
「返す言葉もないです。」
「名前、本当に産みたいの?」
真剣に、今度は目を逸らす事なく言葉が紡がれる。
「1人で育てるの、大変だぞ?それこそうちはの血を狙われるかもしれないし、赤ん坊の時なんて夜泣きで3時間ごとに起こされるらしいじゃないの。俺の同僚が赤子産んだけど、戦闘タイプでバリバリ前線で戦うような奴でも体力的にも精神的にもキツそうだったぞ?」
憎まれ口を叩き合うときの口調じゃなく、任務のときに聞くような口調に、心配してくれているのが身に沁みてわかる。
「私、実際、よく分からないんです。」
「は?」
「自分もあまり家族との記憶ってないし、急に母親です、って言われて育てられるのか不安です。第一、サスケが里抜けしたって追いかけもしないような薄情な女ですよ?無償の愛なんて注げるのかなって。」
「最後のに関しては実証済みだから問題ないと思うけど。」
「でも、分かった時、自然と産むっていう選択肢しか考えてなかったんです。」
そういうと、もう一度大きくはぁと息を吐いて、分かったよ、と言われる。
「火影様には、俺から話しておいてあげる。」
え、と声をあげると、いつ発つの、と聞かれた。
「なるべく早く、がいいです。」
「じゃあ来週の今日、この時間に里の東門で。話通しておくから。」
感謝してもしきれなかった。1週間なんてあっという間で、なんだかんだ忙しいであろうあの人に頼んだことをそっと後悔する。ただただ、言われた時間言われた場所に心細いまま大荷物を持って向かうと、見慣れた姿があつた。
「珍しい、カカシさんが私より早く着いてるなんて。」
「まぁ、こんな日に何時間も遅刻したら最低でしょ。」
そう冗談をひとつ言って、はい、と差し出されたのは通行証と分厚い封筒だった。
「通行証は里抜けじゃないって証だから無くすなよ。あと、退職金。これでどこかに家でも用意しろ。あて、ないんだろ。」
真剣な口調で言われる。
「ありがとうございます、カカシさん。私、こんな恩どうお返したら、」
視界が滲み始める。
「ん、ありがたいと思ってくれてるなら、幸せになってよね。で、ま、いつか木ノ葉に帰っておいで。うちは名前として。」
いよいよ涙が頬を伝う私の頭を優しく撫でてくれる。ありがとうございます、とお礼を言って門の外に一歩足を進める。
「気をつけてね。」
そう掛けられた声に、カカシさんもお元気で、というとニコリと笑顔をくれた。曲がり角でカカシさんの姿が見えなくなるまで、何回も何回も振り返りながら歩みを進めた。最後までずっと見送ってくれた。