里から離れた山奥で忍が1人もいない集落に住むことにした。近所から少し離れた所にあるログハウスがたまたま売りに出ていたのでカカシさんが渡してくれたお金で購入した。丁寧に結界を張り、影分身をしてお産の準備をする。誰に「うちは」の子供だと知られるか分からない。言葉通り1人で産んで1人で育てる覚悟だった。全身汗だくになりながら、お産なんて立ち会ったことすらない影分身の私が子供を取り上げる。無事息子を手に抱いた時は自然と涙が溢れた。
「サツキ。」
呼びかけると手足を動かした。少しだけ生えた髪が見覚えのある黒色だった。噂どおり夜通し3時間ごとに泣くサツキをあやしながら、影分身で交代に仮眠を取った。こんな事もあろうかとコツコツとチャクラパックの保存をしていたので思っていたより全然平気だった。平気だと思い込んでいた。
半年を過ぎた頃、ふと結界に違和感を感じた。張り詰めていた緊張の糸をさらに張る。嘘でしょ、今まで侵入者なんていなかったのに、と体を固くした。サツキを急いでベビーベッドに寝かし結界を張り、一回り大きい結界を張って自分とサツキを囲った。ガチャ、と玄関が開いて入ってきたのは見たことのある黒地に赤で模様が施されたマントだった。
「イタチさん、」
自分の周りにあった結界だけ解いて声を掛ける。緊張の糸が切れたとはまさにこのことだった。ふ、と優しく笑って、見知ったチャクラを感じて来てみれば、と言われる。
「あんな結界だと、チャクラはだだ漏れだぞ。」
さーっと血の気が引いていく。
「安心しろ、もう一つ重ねておいた。これでもうチャクラも漏れることはない。」
「あ、ありがとうございます。それで、私に何か用が?」
ひと呼吸置いて、小さく息を吸ったイタチさんが口を開く。
「医療忍術が使えると、言ったな。」
椅子に座るよう促すとゆっくりと腰掛ける。
「俺の命は、あと、どのくらい保つ?」
そう問われて衝撃を受けた。眉を八の字にして私を優しく見つめてくる。意を決して無言でチャクラを溜めた手をかざすと、本当にひどい状態だった。薬だけで延命してきたんだろう。いわばつぎはぎだらけだった。ぼとり、私の目から落ちた雫がイタチさんのマントに落ちた。
「相当ひどいらしいな。」
綺麗に笑って言葉を促される。
「あと、1年、保つか保たないか、ぐらいです。」
正直に告げると、それは困るな、と本当に困ったように言う。私の知ってる優しいイタチさんだった。
「サスケと、闘わなくては、いけないんだ。」
名前が出ただけでどきりとする。将来闘う事は決定事項かのように言われた。
「あと2年に伸ばせはしないか?」
できなくはない、と思った。ただ、そうなると影分身を解かなくてはいけない。
「ここにはどのくらい来れるんですか?」
「1週間に1日は来れる。今までも週に1日は病院に通ってたんだ。」
「じゃあ、今日は日が暮れるまで?」
「明日の夜明けまでだな。」
何かある、と悟ったのか最大限の譲歩をしてくれているようだった。その姿にサツキを囲っていた結界を解く。
「!」
「じゃあ、私がもし眠ってしまったときに、次の日の夜明けまでこの子のことを看てくれるなら、引き受けます。」
「…聞いてもいいか。」
遠慮がちに言う。
「父親は、サスケ、か?」
なんで分かったんだ、と流石に驚く。
「やはり、そうか。あいつ、なんて無責任な。」
いや、そう仕向けたのは俺なのか、とぶつぶつ言いながら頭を抱えている。
「すまない、名前。兄として全く面目が立たない。」
本当に申し訳なさそうに私の頭を撫でてくる。イタチさん、サスケが大蛇丸に狙われてるって泣いた私に構わず、里抜けするように仕向けたのか、と少し苛立つ。
「約束してもらえますか?」
「あぁ。こう見えて子守は得意なんだ。任せてくれ。」
ずっとサスケの面倒を見ていたからな、と懐かしむように言う。この表情を見てると、本当にこの人はサスケを大事に思ってるんだというのが伝わってきて不思議と怒りが収まっていく。影分身を解きチャクラパックを近くに持ってきて、治療モードに入る。
「あの、ソファに横になって貰ってもいいですか?」
「ああ、よろしく頼む。」
無防備に寝転がるイタチさんを早く苦しみから解放してあげたい、と心から思った。そこから長い長いイタチさんの治療が始まった。
「んぎゃー。」
あと少しでひと段落、というところでサツキの泣き声が響いた。
「サツキ、ごめん、あとちょっとだけ待って。」
そんな言葉無視してぎゃんぎゃんと泣き続ける。これ、いつもの何が原因が分からない奴だ、と焦る。
「治療はもういい。サツキくんを見てやってくれ。」
手首を掴まれそう言われても、今日ここまで進まないと、余命を追加で1年も延ばせない。困惑する私に、少し休憩にするか、と言う。
「あ、でも、この泣き方のとき、サツキ、なかなか泣き止まなくて、」
言い訳する私をよそに、ベッドからサツキを抱き上げるイタチさん。ものの数秒で泣き声が止む。
「え、嘘、どうやって、」
私、母親なのに、とざっくりとショックを受けていると、くすくすと笑われる。本当に傷ついてるのに。
「こういうのは慣れなんだ。今みたいな時は要求がある訳でもない。こう落ち着かせるように抱いてやれば安心してまた眠るさ。」
体を小さく上下に揺らすイタチさんは完全にお父さんだった。ビンゴブックに載っている抜け忍とは思えない。ほらな、という声に顔をあげると、サツキはまたスースーと寝息を立てていて、それを起こさないようにそっとベッドに戻しソファに戻ってくる。
「ありがとうございます。」
「1人で育てるのは大変だろう。よく頑張っているな。」
昔よくしてくれたみたいに頭を撫でられ、ウルウルと視界が潤んでくる。
「参ったな、俺は昔からサスケとお前の涙には弱いんだ。」
泣くな、困る、と目元を指で押さえられる。ふふ、サツキの次は私があやされちゃった、というと、それくらいはお安い御用だ、と返ってきた。
「じゃあ続けますね。」
そう言っていくらか時間が経って無事到達点まで治療できる。
「これで、ちょっとはマシ、かな?」
「ああ、息がしやすいな。ありがとう。」
その言葉を聞いて安心したのか、疲労感がどっと出てくる。バタン、と派手な音を立てて床に転がった私にイタチさんがオロオロしているのが見える。
「すみません、最近あんまり寝れてなくて、ちょっと疲れが出ただけなので、」
気にしないでください、という言葉がサツキの泣き声に掻き消される。イタチさんがまたサツキをあやしに行く姿を見て、サスケもこんな風に世話されてたんだろうか、とふと思う。だんだん遠くなるサツキの声に、もう泣き止んだのかな、と不思議に思ったところで意識が途切れた。