03. 休息日

週に1日はイタチさんが来ると分かっていたので随分と気が楽だった。話し相手になってくれたり、サツキの世話をしてくれたり、至れり尽くせりだった。治療が早く終わっても決して夜明けまで帰ろうとしないイタチさんの律儀さに感謝し、そういう日はサツキを任せてぐっすり寝た。6ヶ月で溜まった疲労は1ヶ月もかからないうちに解消された。どっちが治療されているのか、これじゃよくわからない。例によって夜まで爆睡していた私がリビングに行くと、イタチさんがエプロンをつけてキッチンに立っていた。

「わ、イタチさん、すみません、そんな、食事の準備くらい私が、」

慌てて駆け寄ると、ふっと息を吐き出すように笑って、俺がしたくてしてるんだ、気にするな、と言われる。イケメンかよ。

「そういえば、食費や生活費はどうしてるんだ?」

ふと気になった、というように聞かれた。

「ここに来るまでに少し貯めてたので、それを。」

そうか、とだけ答えて熱々のロールキャベツを綺麗に切って食べている。イタチさんはキャベツがお好きらしい。したくてしている、というのは本心らしかった。それでもついでにサツキの離乳食を作ってくれるあたり、もう私なんかより立派に母親で、ミコトさん、全然手を焼かなかっただろうな、と思う。それともサスケで相殺されてたのかな。

「土産だ。」

次に来た時に箱を手渡されて、お菓子かな?なんて気軽に、ありがとうございます、と開けると大量の札束が入っていた。

「え、イ、イタチさん、これ、これは?」

震える手で箱を押し付けると、気にするな、どうせ俺はそんなに使わない、と言われた。なにその自己犠牲精神。隣人愛。

「だめだめだめ、だめです!これは受け取れません。」
「そんな大した額でもないだろう。」

イケメンで優しくて家庭的で金持ちかよ。欠点ないのか、この人。

「治療費に当てようと思っていたんだが、どこかのお人好しが破格値で見てくれるものでな。」

笑顔で言われると、受け取らない方が失礼な気さえして来た。

「では、お言葉に甘えて。」

あぁ遠慮するな、と嬉しそうに笑う姿に、この人にだけは幸せになって欲しいなと心から思った。とりあえず、毎週なにかしらのキャベツ料理はご馳走すると心に決めた。

「あの、本当はなんであんなことになったのか、とか、聞いてもいいですか?」
「あんなこと?」

サツキに離乳食を食べさせながら、そろそろ離乳食も終わりだな、と呟く姿は非常に心強い。

「うちはの悲劇、なんですけど。」

ピタリと手が止まる。

「お前は気にする必要ないさ。な、サツキー。」

サツキがペタペタとパーの手でイタチさんを叩く。ずっと見つめる私に観念したように口を開いた。

「俺が我慢して、サスケをなんとか引き上げてやれたら、うちはの泥沼試合も終わると思ったんだ。まぁ、新しい命が増えることまでは考えてなかったが。」

想定外だったよ、とサツキに笑顔を見せながら言う。

「俺は何の犠牲になったんだろう、って思わない訳ではない。でも、それで守られた命だってあるんだ。」

悲しい話だった。立ち上がってサツキを2階へ連れて行く後ろ姿を見送った。少ししてサツキを2階で寝かつけて来たイタチさんとソファに座って寛ぐ。

「イタチさんは、こんなに子供大好きなのに、自分の子供欲しいとは思わないの?」

純粋な疑問を問いかけると、ぽかんと口を開けている。その姿はちょっと間抜けで、考えたことなかったんだな、と可笑しくなる。

「びっくりするくらい、考えたことなかったな。今言われてちょっと動揺してる。」
「ふふ、本当サスケラブ。嫉妬しちゃう。」
「俺にか?サスケにか?」
「んー、どっちも?」

気づけばソファに座った2人の位置が近くて、自然と目線が絡み合った。

「どっちも?」

そう口角を上げて問う姿は、なぜだかサスケを彷彿とさせる。私の好きな顔だ。

「サスケにそんなに愛情向ける人がいるってことと、イタチさんにそんなに愛情向けられてること。りょうほ、」

続く言葉は優しく触れられた唇に飲み込まれて行った。閉じられた目に並ぶ睫毛はとても長くて、素直に綺麗だな、と思ってしまう。

「ん、イタ、チ、さ、」

普段の優しい彼からは想像できないような噛み付くようなキスに、食べ尽くされてしまうんじゃないかと思った。

「そんな声、出すな。」

もう一度唇を押し付けられて、薄っすらと目を開くと少し潤んだ目でこちらを見られていた。獲物として狙われるようなぞくりとする感覚に体中に電気が走る。

「すまない、名前、頼むから、拒んでくれ、」

そうしたら、俺は、とちゃっかり縋る行動をしながら突き飛ばせと無茶な要求をしてくる。初めて見る、子供みたいなイタチさんに、もしかしたらこれが初めての我儘だったりして、とぼんやり思う。イタチさんならあり得る。それを押しのけるなんて。他人のために生きる人の唯一の心からの要求を突き放すなんて。そんなのできる人、いるの、と心の中で問いかける。

「サツキ、兄弟、欲しいって。」

言ってたよ?、なんて我が子をダシに使って、なんて最悪な女だ、私は。

「そうか、それは作ってやらないといけないな。」

そう優しく笑って嬉しそうに跨ってくる人に押し倒されながら、幸せだな、なんて微笑んだ。