05. 別れの時

その日来るなりらしくなくドアを急いで開けたイタチさんは、生まれたのか、と焦った声で言った。大方、いつもより多く気配を感じたのだろう。その姿に苦笑する。

「うん、イチカ、パパ来てくれたよー?」

抱いたままだった小さい女の子を見せに近寄ると、口を手で覆って涙ぐんでいる。

「本当に、」

言葉が震えその先に言葉が続かない様子を見てこちらまで感動してしまう。

「、イタチさん、抱っこしてあげて、」

手渡すと、あんなに子供に慣れているのに、壊れ物でも扱うかのようにそっと大事に抱きかかえた。本能で父親だと分かるのか、嬉しそうに手足を動かす娘を微笑ましく眺める。

「イチカ。...イチカ。」

何度か名前を呼んでボロボロと涙を流した。

「名前、産んでくれてありがとう。」

その言葉に今度は私が涙を流した。

「今日は治療はいい。」

そう言ったイタチさんはずっとイチカを見ていた。聞けば、もう延命する必要はなくなったらしい。

「本当に2年もたせてくれるとはな。もう立派な医療忍者だな。」
「本当はね、目の治療ももっと進めたかったの。はっきりイチカが見えるように。」
「ふ、会えただけでこんなに幸せなんだ。これ以上は望まないさ。」

そう言って言葉を切って、静かな時が流れる。

「もう、ここには来れなくなる。」

そっか、とわかってたように返す。

「あいつのことを無責任だと言ったが、俺も大概無責任だよな。」

すまない、許せ、と力なく笑う姿は今にも消えてしまいそうだった。

「俺に言われなくとも、お前ならそうすると思うんだが、言わせてくれ。」

しっかりと私に向き直って、目が合う。

「イチカを、サツキを、頼む。」

視界が滲んで鼻の奥がツンとする。

「あと、サスケのこと、いつか、許してやってほしい。」

ポロポロと涙が頬を伝う。

「里抜けするよう仕向けて、悪かったな。」

『あいつから聞いた』とサスケに初めて睨まれたことを思い出した。

「木ノ葉で会った時、サスケが心配で泣き崩れるお前を見て、怖かったんだ。共倒れしそうな姿を見て、一旦距離を置かせないとと思った。」

ティッシュを取ってきて私の目元を拭う手が優しかった。

「うん、正しかったと思う。月読から覚めた時、サスケに初めて怒鳴られて、1週間まともに食事も取れなかったよ。」

冗談だと思ったのかどうなのか、ふっと笑った。

「お前は月読にはかかってなかったよ。」
「?かかってたよ?綱手様も他の2人と同じ症状だったって。」
「側からはそう見えても、術をかけた者からしてみれば、簡単に分かるものさ。術が成功したかどうかなんて。」

あの時のように目線が交わったけど、どちらも写輪眼ではなかった。

「お前は俺の月読を破ってた。」

さすが、俺以来の秀才と持て囃されただけあるな、と笑われる。

「お前の強さは知ってる。その瞳術も、今までは憎かったかもしれないが、これからはお前を助けてくれるだろう。」

護るべきものがある時は最強だな、その力は、と頭を撫でられ、涙が止まる。

「まぁ、まさか1人で子育てさせることになるとは思っても無かったが、きっとお前のためにもなるさ。」
「うん。ありがとう。」
「っ、じゃあ、俺は、これで。」

そう言って玄関に向かう背中に、イチカの泣き声が響く。ぴたりと歩みを止めたイタチさんは、娘の方へ足を向けそっと抱き上げた。イチカが泣き止む。

「許せ、イチカ。俺のエゴでお前をこの世に呼びつけて遺していくことを許してくれ。」

控えめに額を小突く。

「愛してるよ、イチカ。会えなくても、ずっと。」

恋人に言っているような愛の言葉に彼の愛情の深さが見て取れる。

「俺の代わりに母さんと一緒に居てやってくれ。」

先程小突いたばかりの額に口付けて、小さな体をベッドに戻した。その背中が寂しくて抱きつく。イチカにしたように優しく声をかけられる。

「名前、ありがとう。」

耳に言葉が届いた瞬間、もうそこに彼の姿はなかった。