イチカの夜泣きがだんだん無くなって掴まり立ちが出来るようになった頃、その人はまた現れた。影分身を使って、走り回るサツキとお昼寝中だったイチカを抱いて2階に連れて行く。
「普段からそれで生活しているのか。」
それ、というのは影分身のことらしかった。
「まぁ、はい。」
「それはなかなか大変そうな。」
「そういう事情もあって、もともと膨大なチャクラを要する治療なので、時間がかかってしまいます。」
「仕方ないか。今はお前以外に治療できる奴はいないしな。」
驚く程大人しく治療されている姿に警戒が少しほどける。
「イタチさんとは、知り合いだったんですか?」
「過去形か。あの兄弟の闘い、知ってたのか?」
質問に質問で返される。だいぶ進んだ治療の手を止め、肩で息をする。
「貴方も知ってたみたいですね。」
額に汗が滲んできて、テーブルに手をついて自分の身体を支える。
「イタチは最期、幸せそうに笑ってたよ。」
チャクラパックを開けようとするのに力が入らず上手くいかない。
「貸せ。開ければいいんだろ?」
そう言って私から引っ手繰るように奪うといとも簡単に開けテーブルに置かれた。
「座った方がいい。」
顔色が悪い、と立ち上がって私の後ろに回り椅子を引いた。確かに身体が悲鳴をあげていたので素直に腰を下ろした。
「今日はこれで構わない。」
面を再び付けようとする姿を見ながらチャクラを吸引する。
「強がってもだめですよ、次その眼使ったら失明するかも知れないの、自分でも分かってるでしょ。それくらい私だってちゃんと見えてます。」
面を持つ手がピタリと止まり、こちらを見られる。
「約束した手前、放り出したりなんかしないです。後味悪いじゃないですか。」
いきなり*に手を伸ばされ、びくっと肩を揺らした。面は手に持ったままじっとこちらを見ている。でも私じゃなくて遠く後ろを見るような変な視線だった。
「あの、」
「っ、顔色、マシになった。」
声を掛けるとハッと気付いたように手を退け、そう言われた。チャクラが行き届いたらしい。再び治療を始めた私に口を開く。
「うちはの悲劇、裏で手引きした頃からの付き合いだ。」
それはイタチさんとの仲を問うた質問への答えだった。
「それで二人で暁へ?」
「まぁ、そんなところだ。」
お前には話さなかったか、とふっと吐き出すように笑う。
「よかったな、イタチが優しく聡い奴で。知ってたらお前らはイタチの後を追う所だった。」
まぁ、あの世で会えるならそれはお前にとっては幸せなのか、と何でもない風に言われ肝を冷やす。うちはの真相を教えてと請うた時そこまで話さないでいてくれた彼に感謝する。この人が此処に来る可能性を知っていたんだろうか。
「貴方は一体、」
まずい、と思うのと身体が傾き始めたのが同時だった。チャクラを使い過ぎたようで床が目前に迫る。
「ったく、危なっかしい奴だな。お前はもっと自分を大切にした方がいい。」
白ばむ景色の中で暁のマントが見えて、倒れこむ寸前に抱えられたのだと理解する。ふわっと浮遊感がして怖くなって目の前にあるマントを掴むとそっとソファの上に降ろされた。
「ほら、これで体調戻るんだろ?」
早く使え、と先程のチャクラパックを手渡される。霞む視界で必死に吸引しようと手繰るが上手くいかない。
「貸せ。」
先程見ていたからかスムーズに取り付けられ、少しずつチャクラが回復してくるのが分かる。
「ありが、とう、ござい、ます。」
「こんな状態でも影分身は解かないのか。すごい精神力だな。」
彼の言う通り、もはや精神力だけだった。視界に色が戻り、肩で息をする。
「これで、次来るときくらいまでは、眼、もつと思います。」
「そうか。」
お礼の1つでも言って貰いたいものだ、と背を向けたその人を見て意識を手放した。