子供の命を脅して取り付けた治療の約束を、自身の身を粉にして果たそうとする姿に動揺する。更に先程の言葉、と昔想い人に言われたのと似たような言葉を思い出す。このまま置いて行っていいものか。ソファに目をやると疲労で眠ってしまっているようだった。
「うちは名前、だったか。」
記憶を辿り寄せる。うちはの偵察に行った時に何度か聞いたことがある。人の行動を支配する写輪眼。まだ一度も使われていないところを見ると、自分は脅威と見なされていないらしい。それとも写輪眼を使えないほど、この分身生活で疲弊しているのだろうか。どちらにしても、俺に脅された時点でそれに従うしかないと悟ったような素振りだった。イタチが残したであろうチャクラを遮る結界はこの為だったか。気配を消す通常の結界、チャクラを断つ結界、そして俺が張ったうちは以外を跳ね除ける結界。ここまですれば、後は俺の治療など手を抜いて時間稼ぎしていれば、こいつの生活は安泰なのだ。何か要求があってしているようにも見えない。本当に『後味が悪い』だけでしているのだろうか。
「かあさん?」
幼子の声に巡らせていた思考を中断すると、いつのまにか一体影分身の気配が減っている。術が解けて心配になったのか、少年が一階に降りてきた。その目でソファに横たわっているのを見たのだろう、駆け寄ってくる。
「かあさん!」
涙ぐむ少年を抱き抱えてやる。
「母さんは少し疲れて眠っている。じき目覚める。」
途端、ぎゃんきゃんと泣き出す姿に狼狽する。どうしていいのか分からず身体を揺すってやるもジタバタと暴れ始める。
「…サツキ?」
掠れた声で小さくそう呼ぶ声が聞こえると、かあさん!、と嬉しそうに其方に両手を伸ばす。落ちそうになるのを構わず乗り出す小さな身体を母親の腹の上に乗せてやるとピタリと泣き止んだ。
「どうしたの?」
「とつぜん、きえたの、かあさん。」
「え、あ、うん、ちょっと眠たくなっちゃって、ごめんね。ビックリしたね。」
まだ辿々しく話す子供としっかり目を見て会話を続けてやる姿はまさしく母親だった。
「あのひとだあれ?」
「あの人は、」
チラリとこちらを見られる。俺自身の情報は伝えていない。
「母さんの患者さん。」
「かんじゃさん?」
「そう。お目目をね治してるの。」
「おめめ、いたいの?」
こちらを向いてそう問われる。
「あぁ。」
「それで、へんなおめん、つけてるの?」
「そうだな。」
その返答には彼女も驚いたようで、目を丸くされた。まだ体が自由に動かないのか、息子の背中を優しくさするだけの姿に、少し罪悪感が沸く。
「サツキと言ったか、良いものを見せてやろう。」
そう言うと、いいもの?!、と目を輝かせて此方に来た。心配そうな母親の姿が目に入る。
「手を見ていろ。」
「うん!」
元気に頷いた少年の目の前に手を差し出し、木遁で置物を作って見せる。ゆっくりと形取っていくそれに、なになに、と色んな角度からみる姿が頬笑ましい。
「わ!とりさんだ!」
「気に入ったか?」
「うん!さわっていい?」
「あぁ。これはお前にやろう。」
「ありがと!」
そういって手に取るとそれを持って母親の元に駆け寄る。
「かあさん、みて!これ!」
「なーに?」
「とりさん!おじさんがつくった!」
俺はおじさんらしい。
「よかったね。ちゃんとお礼言えた?」
「うん!いったよ!ね?おじさん!」
「そうだな。」
母親が苦笑する姿が目に入る。腕を動かして小さな頭を撫でてやっている。
「ね、おじさん、ほかには?ほかにもなにかできるの?」
純粋なキラキラした目で見つめられ、嫌な気分はしなかった。
「サツキ、おじさん、困るから、」
「構わない。来い。見せてやろう。」
目を丸くする母親から離れて、駆け寄ってくる姿に*が緩んだ。一度も使われたことのなさそうな暖炉の前に立つ。
「これ、使えるのか?」
「え、あ、多分、使えると思います。まだ、使ったこと、ないんですけど。」
「そうか。」
手から木材を出して薪を作っていく。
「わー!すごい!」
「木遁、世界一贅沢な使い方、」
座れるようになったのか起き上がった彼女が呟いている。間違ってはいない。
「これくらいでいいだろう。」
次に火遁の印を結ぶ。口から細く出した炎で暖炉の火をつける。
「ひがついた!ねぇ、かあさん、みて!ひがついたよ!」
息子に呼ばれて立ち上がって此方に来て、本当だ、火ついたね、と息子の隣にしゃがんで話を合わせている。
「くちからね、ひがでたの。」
「そう。凄いね?」
「うん。ね、おじさん、ぼくにもできる?」
一瞬、彼女の表情が固まって、悲しそうに息子の顔を見る。遠く誰かを重ねているような顔だった。
「すぐには無理だが、大きくなって、いっぱい修行したらできるかもな。」
「しゅぎょー?」
「強くなったら、できるようになる。」
ふーん、と聞いておいて興味なさそうに言うと、じゃあつよくならないとね、と笑った。こっそりと影分身をした彼女が、サツキ、とりさん、お部屋に飾りに行こう?、と呼び掛ける。
「うん!」
元気に頷いて彼女と手を繋ぐと階段をえっせえっせと上がっていく。振り返って俺に手を振り、ほら足元見て、と怒られている。
「なんか、すみません。遊びに付き合って貰って。」
空っぽになったパックを持って此方に歩いて来た。
「火遁はともかく、木遁ですか。」
一体、何者なんですかね、と他人に訊ねるような口調で言われる。
「普段はトビと名乗っている。」
「ふーん。うちはの人ってみんな3文字だったと思うんですけどね。イタチさんとか、シスイさんとか、オビトさんとか。」
そう言って此方を見た眼はいつの間にか写輪眼になっていて、最後の候補は確信を持って口にしたのだと分かる。
「知ってたのか。」
「いえ、カマかけてみたんですけど、当たってたみたいですね。」
偽名って本名を文字ったものが多いって言いますもんね、と何処で得たか分からない知識を披露された。
「そっか、オビトさん、ご無事だったんですね。」
もう写輪眼は解かれていて、何を思い出しているのか、懐かしむ顔をしていた。
「暁にいるってことは木ノ葉には戻らないんですか?」
黙っている俺に、そうですか、残念、と眉を下げて笑う。
「お前の年ぐらいの奴とは会ったことがないと思っていたが。」
「そうかもしれないですね。」
それ以上は言うつもりがないのか、キッチンへと向かいながらそう返された。
「夕ご飯の支度しますけど、食べていきます?」