当分来れなくなる、という言葉通り、オビトさんはそれからパタリと来なくなった。それまでも頻繁に来ていた訳ではなかったけど、何ヶ月も間を開けることはなかった。あんなに懐いていた息子は最後に来た時に何か言われたのか、一回も「来ないね」と言わなかった。その代わり毎日外で遊ぶ、と言い、結界内の庭に出るようになった。見ると木遁で作られたであろう的がいつのまにかこさえられている。手裏剣やクナイを模した木のおもちゃを大事そうに箱にしまうサツキの姿も見た。誇らしいような寂しいような思いでその姿を見守る。そんなとき、また突如始まった吐き気に嫌な予感がする。
「嘘でしょ。」
味わった既視感に余っていた検査薬を使う。妊娠していた。原因は明らかに、突如現れたサスケとの行為だ。近くに薬局がなくて、お手製のアフターピルを飲んではおいたけど、効かなかったらしい。体調が悪いのが分かるのか、イチカが心配そうにお腹を撫でる。子供はこういうの分かるっていうからな、と苦笑してなるべくいつも通り過ごす。
「かあさん、おなか、ふくらんだね。」
ふとある時、サツキにそう言われて、うん、弟か妹ができるよ、と答えた。
「あかちゃん、いるの?」
「そう。お腹、優しく触ってみて。」
恐る恐る2人が手を乗せる。タイミングよくお腹が蹴られて2人が驚く。名前、何がいいかな、男の子かな女の子かな、なんてなんだかんだ楽しみにしている自分がいた。あんなに追い込んでも好きだとすら言ってくれない人を何故こんなにも想い続けるのか、自分でも分からなかった。本当はもうとっくに好きなんかじゃなくって、意地になっているだけかもしれない。全くときめかなかったキスを思い出して寂しくなる。もう、いい加減忘れるべきなのかもしれない。
「大丈夫か?!」
焦った声を出して突如現れたその人にサツキが、うわ、と叫ぶ。イチカがゆっくり泣き出して、あわてて影分身で2人を2階に連れて行く。
「どういうつもりですか、急に。大丈夫か、なんてこっちが聞きたいです、」
「お前、その腹、」
驚いたように固まる姿に、気配が1つ多くて慌てて入ってきたのだと悟る。
「まぁ、誰かさんの所為で、」
「すまない。」
言い終わる前に言われ、いや、そこまで罪悪感感じなくても、とフォローする。
「悪いのはサスケなんですし、」
「…違うんだ。」
違うとは、とそちらを見ると面を外された。相当反省しているらしい。
「あれ、は、サスケじゃなくて、その、変化した、俺、で、」
「は?」
「悪い!初恋の人だって言うから、治療のせめてものお礼に、一目会わせてやれたらいいな、と、それで、」
コメツキバッタのように土下座する姿を混沌とした頭で捉える。
「変化?」
「本当は本人を連れて来たかったが、任務を任せて出発したばかりで、その、」
「…つまり、あれは、サスケじゃなかった、ってこと?」
顔を上げ捨てられた子犬のような目でこちらを見てくる姿にだんだん思考が追いついてくる。
「え、うそ、待って。」
口を手で覆ってだんだん顔が熱くなる。思わず顔を逸らす。
「我慢できなくて、すまなかった。」
「*っ!」
両手で口を覆って言葉にならない声を発する。つまり、サスケだと思ってたのはサスケに変化したオビトさんで、オビトさんと散々育んだ愛の結晶がこの子?!、とお腹の中の子に呼び掛ける。脱力して椅子に座り込む私を子犬の如く見てくる。
「会いたかったと言われたときに、騙してる罪悪感が出てきて、伝えようと思ったんだ。」
確かに何か言いたそうだったのを私が遮ったな、と思い出す。
「悪い、騙すつもりはなくて、何度か伝えようとしたんだが、その、」
キスで塞いだり、怒りで捲し立てたりした記憶がはっきりと浮かぶ。何か言いたそうにしてたの、コレだったのかよ。言えよ。
「思ってたより、憎悪の念が強くて、萎縮してしまって、」
まぁ、初恋の人と聞いて誰も想像できなかっただろう剣幕だったのは認める。
「それで、意外と、積極的なのが、グッと来て、」
グッと来るな、どMか。思い出しただけで恥ずかしくて、両手で顔を覆う。そう言われてみれば、サスケにしてはおかしいくらい言いなりだったな、と思い出す。
「思わず、その、興奮して、悪い、何度も、」
そこまで赤裸々に謝らなくても、と余計に恥ずかしくなる。
「はぁ、なんで、私、変化くらい気づかないかな。」
両手で顔を覆ったままテーブルに肘をつき項垂れる。思い返してみれば違和感を感じた場面はたくさんあったはずなのに。じゃあ、キスでときめかなかったのも、好きだと言って貰えなかったのも、サスケじゃなかったからだったのか。こっそりと安堵する。もう一度其方に目をやるとまだ潤んだ目で見られていた。
「もっと突き飛ばしてくれて良かったのに。変な所優しいんですね、オビトさんって。」
「まぁ優しいというか、雰囲気に流されたというか、」
「あ、だから次の日来た時、様子がおかしかったんですね。」
「うっ、悪い。全く気付いていないようだったから、タイミングを失って、」
仰る通り1ミリも気付いてなかった。ここまでくると自分に呆れる。
「気が済むまで、責めるなり、痛めつけるなり、好きにしてくれて構わない!」
「あ、いや、私、そういう趣味がある訳じゃ、」
「!違ったのか。」
「ち、違います!あれは純粋な怒りから偶然そうなってしまっただけで!」
危うく誤解されたままになる所だった。オビトさんも誤解だったら大概恥ずかしいご嗜好を披露していたので、そこはおあいこだが。
「と、とにかく、起きてしまったことはしょうがないですし、お互い、何も無かったことにしましょう。」
「そう、だな。それがいい。」
グラスに水を注いで、カラカラになった喉を潤した。あぁ、オビトさんだったから、慣れたように水飲んでたのか、と何気なく思う。
「まぁ、でも、相性は悪くなかったよな。」
彼の目線の先にあるグラスは、そういえばあの日彼が使ったもので、一気に*に熱が集まる。
「サスケに教え込まれたのか?いや、イタチか?あれはイタチだろ?」
恥ずかし過ぎて口をパクパクさせる私を気にせず続ける。あれ、がどれなのかは聞きたくない。
「兄弟だとやはり似るものなのか?どっちが良かった?」
「そういやイタチもやはり飲んでたか?ぼ、」
「*っ、忘れろ、このド変態!」
そう言ってまだ床に座ったままだった肩を思い切り蹴ると、後ろに転げながら少し嬉しそうにしてて背筋が冷えた。