息子に忍になりたい、と強い眼差しで言われて真っ先に相談の文を出したのは、その子がお腹にいる時に助けてくれたあの人だった。大戦が終わり、かつてお世話になったその人が里の長になったという噂はこの小さな街にも届いていた。そう日を開けず返ってきた書には歓迎の文字と、サスケは旅に出るという情報が記されていた。
「ありがとう、カカシさん。」
何年も音沙汰のなかった自分をまだ思ってくれる人がいると知って、心がほぐれた。
「母さんの生まれ育った故郷に行きたい?」
そう問いかけられた息子は、迷いもせず、うん!、と答えた。それから準備を始めて、目処が経った所で到着予定日を知らせた。
「これから長旅になるよ?」
何が入っているのかリュックサックを背負った長男が「俺は大丈夫!イチカとオリテを見てあげて。」と頼もしい言葉を口にした。もうだいぶ掠れている記憶の中でさえ大人の足でも長かった道のりを思い出し、道中にいくつか宿を取ってある。疲れた表情を見せる下の子たちと、以前に比べて体力のなくなった自分に、その判断は正しかったと思わされた。そんな中でも一度も弱音を吐かず、私に頼る事なく宿まで辿り着いた長男に成長の跡が垣間見えて、嬉しいような寂しいような気持ちになる。
最後の宿を出発して、到着予定時間を少し遅めに伝えていたのにちょうどいいくらいになってしまったな、と自嘲する。子供達の成長が進む分、十分私も年を重ねているらしかった。見覚えのある門を見つけ、*が緩む。
「あともう少しだよ。あの大きな門をくぐれば到着。」
やはり強がっていたのか長男が一気に顔色を明るくする。腕の中で寝てしまった次男と疲れたのかいつもの減らず口が聞こえない背中の長女も元気を取り戻す。門番に丁寧に挨拶し、通行証を見せると、お疲れ様です、と快く通してくれた。
「はい、着いたよー。」
少し声のトーンを上げて言うと、背中から飛び降りるようにして長女がはしゃぎ出す。次男も眠たそうに目を擦って上の子2人の元へと歩み寄る。そこに、懐かしい気配を感じて足を進めた。
「ご無沙汰しております。火影様。」
声を掛けられたその人は気持ち落ち着いた印象になっている。擽ったそうに微笑むと、壁に預けていた背中を持ち上げた。
「ん、久しぶり、名前。」
今度は私が擽ったさを感じながら笑って子供達の背中を押した。
「右から年齢順に、サツキ、イチカ、オリテと言います。」
背中を押された長男がぺこりとお辞儀をし、つられた2人も頭を下げる。ニコリと低い位置に微笑み掛けながら何か言いたそうな目線を投げかけられた。少し困って曖昧に笑う。
「よろしくね。住む場所のあてはあるの?」
「はい。以前お借りしていた一族に再度貸して貰える事になりました。このご時世にありがたいです。」
心からの感謝を付け加えると、そ、なら安心かな、とだけ返される。
「病院での勤務だけど、話は通してあるから明日時間があったら行ってみてよ。」
「ありがとうございます。」
「あと、アカデミー、ね。今の所は上の子2人だっけ?」
「はい。」
「ちょうど来週から学校再開だから通ってちょうだい。クラスは受付に行けば教えて貰えると思うから。場所わかる?」
「はい。何から何までありがとうございます。」
ちらりと子供達を見遣る視線を感じたと思ったら「じゃあ、また何かあったら気軽に相談してよ。」と呆気なく背を向けられた。懐かしいその人との会話に擽ったさが残るまま、引越し先へと足を向けた。