火影室に姓名変更届を持って来た彼女は、シカマルに用があると言って先に部屋を出たサスケを不思議そうに見た。
「そういえば、長女、お前にそっくりだね。」
唐突に投げかけられた言葉に一瞬固まった後、そうですか?、と問われる。
「自分じゃわからないですけど。」
「この前、サスケと接する姿、見たのよ。偶然。」
あの独特な空気感に見覚えがあるのか、見ましたか、あの掛け合い、と言われた。
「ん、面白いよね、あれ。」
「母親としては娘の将来が心配ですけどね。今の所サスケだけに発揮されてるみたいなんですよ、不思議と。単なるイケメン好きなのかな、なんて。」
「いや、あれは父親とみなして甘えてんでしょ、イチカちゃん。」
「そうなんですか?」
全然気付いていなかった様子に愕然とする。こりゃ、自分のことも気づいてないかな、とあまり期待せず話を進める。
「なーんか、憎まれ口というか、わざと困るようなこと言って、構ってって甘えてんでしょーよ。」
「それが私にそっくりと言われると、肯定はしずらいですね。」
勘がいいと言うか頭はそこまで悪くないと言うか、俺の言わんとしている方向に解釈している。
「そ?俺はサスケと接するイチカを見て、あー、名前もこんな風に慕ってくれてたのかなー、って嬉しかったけどね。」
顔を真っ赤にして、お得意の憎まれ口が珍しく出ない姿を見つめる。
「俺もね、何なのかなーって思ってたのよね。お前も俺に対してだけじゃない?失礼なの。」
「失礼で失礼しましたね。以後気をつけます。」
「そうやって憎まれ口叩いてるの、他では見たことなかったからさ。最初はやけに嫌われてるなーと傷ついてた訳よ。」
「数々の死闘を切り抜けて来たカカシさんの鋼メンタルなら大丈夫かと信頼してですよ。」
「イビキに聞いてもアンコに聞いても、テンゾウに聞いても、みーんな良い子だって口を揃えて言うじゃない。」
「だから少し反省して、火影様として接するときにはちゃんと接してますよ?私。」
「ん。それで気付いたんだよねー。ほら、お前、ビックリするほどサスケのことばっかだったじゃない?」
「すみませんでしたね。サスケ中心に世界が廻ってたんです。」
「そう。弱みを見せないように、サスケに気付かれないように、って強がって、知らない間に医療忍術の修行しちゃうくらい負けず嫌いじゃない?」
「…馬鹿にしてますよね?」
「そんな意地っ張りの癖に、俺には頼って来てくれるのが可愛かったんだよね。ほら、自分でも、困ったときには俺が浮かぶって言ってたし。」
恥ずかしいのか言葉を出せずに俯く姿に、もう少し苛めてやろう、と思う。
「それが、もう大丈夫だ、って言うじゃない。そんで、自分はもう大丈夫だから、そっちはそっちでやってよ、みたいな一人前なこと言い出して。」
「そこまで言ってないじゃないですか。」
「なーんか、思春期の娘を持つ父親ってこんな感じなのかなって、思ったんだよネ。」
そこまで言うと俺の言いたい事が分かったのか、一瞬驚いたように目を見開いて、思い出したように口を開いた。
「カカシさん、私のこと、娘みたいだと思ってくれてたんですか。」
「まぁ近いかな。」
珍しく動揺を隠さない様子に、俺も自分でも気付いてなかったもんなぁ、と思う。
「お前だって、父親みたいに縋ってきてたでしょ?」
「そ、」
一度出しかけた言葉を飲み込んで、もう一度口を開く姿が見えた。
「そうかも。」
「ん。だからさ、俺はもう幸せなのよ。」
初めて2人で飲みながら話した時を思い出して言った。
「だから、俺に良い人がいようといまいと、いつでも俺のところに逃げて来て良いからね。」
ポロリと涙を流した彼女は、駆け寄って来てタックルするように抱きついて来た。
「いっ、まぁ、もう年だからもっと気を遣ってくれると嬉しいけど。」
「嘘つき。」
「ん。」
「…サスケとのこと、カカシさんが仕組んだの?」
「仕組んでくれたの?でしょ?」
そう言うと無遠慮に胸をグーで叩かれて、身体が離れていく。笑いながら目線を外して涙を拭った姿は年相応の女の子だった。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
「私、悪い女だから、カカシさんの大事な教え子、泣かせちゃうかもよ?」
「あら、悪い女だったの?どこで教育間違えたのよ。」
顔を見合わせて笑う。
「良いよ。お前の好きに生きれば。」
「そうやってすぐ甘やかす。」
「教え子は大事だけど、娘はもっと大事だからね。」
娘という言葉を聞いて、また目を潤ませるのを見て苦笑する。
「何、母親になると涙脆くなるの?」
「そうみたい。」
指で目元を拭ってやると擽ったそうに笑う。
「もういっぱい苦しんだじゃない。そろそろ自分のために生きてあげなさいよ。」
「何で私の父さんはこんな良い男なのに貰い手がないんだか。」
もう一度抱きついてくる背中をぎゅっと抱き寄せる。
「さぁ、手のかかる娘がいるからじゃない?」
「だから親離れしてあげるって言ったのに子離れしなかったの、カカシさんでしょ。」
「そうだな。」
「…ありがとう。」
「うん。」
「大好き。」
「それは、サスケに聞かれないようにしてね。俺、殺されちゃうから。」