26. 根回し

「おい、ちょっと面貸せ。」

物騒な言葉で私を呼び止めたその人は人気のない部屋へと私を連れ込んだ。

「奈良上忍?」

そこは火影付きの参謀の控え室らしく、彼以外に人は居なかった。

「お前、どういうつもりだ?」
「?何がですか?」

何か気付いているらしい様子に警戒しながら、写輪眼を発動し、慎重に慎重に訊ねる。

「サスケの事だよ。あいつ、結婚してんの知ってんだろ?」
「?はい。」
「娘だって産まれてんだぞ?!」
「そうみたいですね。この間、可愛すぎてまだ抱っこも出来てないって惚気られました。」
「…は?」
「あ、の、もし、勘違いされてたら、なんですけど、私とサスケは只の幼馴染ですよ?」
「幼馴染?」
「はい。私、一応、うちはの血を引いてるんですけど、忍としてはてんで駄目で、アカデミーに通ってなかったんです。だから、友達も少なくて、家族もいなかったから、サスケに依存してた、というか。」

お恥ずかしいんですけど、と目を伏せて言うと、彼の*が赫らむ。

「そのクセが抜けなくて、今も接しちゃってて、この間、カカシさんに叱られちゃいました。」

自嘲するようにそう言うと、カカシさんとも仲良さそうだったよな?、と振られる。

「カカシさんは、幼い頃に一度お世話になってから良くしてくださってる、お父さんみたいな方で。」
「お父さん?」
「あ、失礼ですよね、今はもう火影様なのに。私、本当甘えてばかりで、今でも気にかけてくださって。」

この人にはカカシさんに抱き締められている姿を見られてるから、そちらも誤解を解かないと。

「へぇ。そうやっていつも誑かしてんだ?アンタ?」

あれ、途中まで上手く掛かってたんだけどな、と少し焦る。

「誑か、す、なんて、そんな、」

ジリジリと寄ってくる姿に一歩一歩と後ろに下がる。

「父親があんなに愛おしそうに抱きしめるかね?」

壁に追いやられて少し上から意地悪そうな声が降ってくる。

「だいたい、カカシさんとはそんな塩らしい言葉遣いじゃなかったよな?」

そうだった、忘れてた。

「アンタ、カカシさんと似たような匂いがすんだよな。」

そう言ってぐいっと顎を上げられて目を合わせさせられる。

「頭、切れるんだろ?そんな塩らしい振りやめろよ、疲れるだろ?」

頭が切れる訳ではないけど、見抜かれてはいるようで、内心驚く。

「どっちかってーと、忍としては駄目とか言いつつ、俺みたいに頭で色々考えるタイプなんだろ?」

IQ200怖い。

「そんな、私、本当に、」
「まぁ、可愛いのは認めてやるよ。でも、残念ながら俺には効かねぇぞ?」

可愛いのは認めてくれるらしい。じゃあそっちから攻めるか。

「、なら、上忍、」

上目遣いに見上げると鋭かった目が少し揺れ、*に赤みが指す。

「ごめんなさい、私、奈良上忍と仲良くなりたくて!」

目をぎゅっと瞑ってみせる。

「え?」

顎に添えられていた手が離される。

「あ、私なんで、あの、違うんです、」

自分で言っておいてさすがに恥ずかしくなって*が熱くなる。ポカンと*を赤らめたまま此方を見つめられていて、両手で顔を覆う。そんなに見つめられると穴が空くんですが。

「でも、私、なんか、なかなかお会い出来ないし、奈良上忍、仲間思いだから、奈良上忍の周りの人と仲良くしてたら、意識して貰えるかなって、」
「なっ、」
「サスケは、向こうは何とも思ってないし、春野さんも私の事は知ってるから、あの、り、利用させて貰って、カカシさんは、特に特定の恋人いないみたいだったから、その、手伝って貰って、あの、私、本当最低ですよね。」

そう言って涙ぐみ出したのをオロオロと見つめる。

「い、や、何て言うか、まさか、そんな、そういう感じだと思ってなくて、なんか悪ぃ。」

バツ悪そうに頭を掻く姿にあと一押しだと意気込む。

「奈良上忍!」

近くにあったその胸に抱きついてみる。

「!」
「あの、分かってるんです!奈良上忍には素敵な彼女さんがいらっしゃるの!」
「え、あぁ、まぁ。」
「だから、あの、不躾なんですけど、その、一瞬でいいので、私の事、抱き締めて貰えませんか?」
抱き着いたまま上目遣いで言う。
「、は?」
「それで、諦めます!」

しーん、と静寂が続いて、抱き着いている胸元からどくどくどくと速めの鼓動が聞こえる。この人自体も格好悪くはないけど、サスケと同じクラスだったならモテることはなかっただろう。一種の賭けだった。

「わ、分かった。」

よし、と*が緩んで、顔が見えないようにちゃんとしがみ付いた。

「、ほら。」

そう言ってがっしりと背中に手を回してくれる。騙してるのが申し訳ないくらい良い人だな、と思った。

「ありがとな、その、想ってくれて、」

返事の代わりに静かに鼻をすする。すると、ゆっくりと優しく引き剥がされて、結構近い距離で目が合う。

「っ」

何が起こったのか分からない速さで、どんっと音を立てて壁に押し付けられ、唇を奪われていた。あれ、これは想定外だった。

「んっ、っは、」

駄目だ、奈良上忍って言いづらすぎる。名前を呼ぼうとしてるのに喘ぎ声にしか聞こえない。

「んん、な、ら、」

奈良ってどっちもあの口で、簡単に舌の侵入を許してしまう。首の後ろと腰をがっちり抱かれて、貪るようにキスをされる。

「っ」

両脚の間を割るように足が割り込んできて、硬くなったものが腰にあたる。忙しくてご無沙汰だったのだろうか。カカシさん、ちゃんと休みをあげて欲しい。

「っはぁ、はぁ、」

ようやく唇が離れて足りなかった酸素を補おうと肩で大きく息をする。そんな私を余裕なさそうに見つめて、私の腰辺りをさすり、右手が服の中に入って来ようとする。

「、いいんですか、私とこんなことして?」

ピタリ、と動かしていた手が止まる。

「当たってますけど、最近できてないんですか?」
「っな、」

一気に顔を赤らめるその人の胸元を両手で掴む。しっかりと目を見つめてから、耳元に口を近づける。

「貴方が嫌悪してた不貞行為、ってこれ、ですよね?」
「っおま、」
「人のこと、言えませんね?奈良上忍?」

ふふっと笑うと力なく手を降ろして呆然と立ち竦む姿が目に入る。

「まさか、これ以上、人の私生活に文句付けませんよね?」

そう言うと気まずそうに目を逸らされる。

「脚、どけてもらえます?」
「っ、悪ぃ。」

少々罪悪感を感じながら部屋を後にした。