05

サークルの飲み会でたまたま隣になったその人は噎せたようで盛大に咳き込んだ。珍しい光景らしく、他のテーブルにいた人まで心配そうに先輩を見ている。それもこれも私の言動が原因だった。

「先輩、どうやったら惚れてくれるんですか?」

成す術なくなり、初心に返ってストレートに訊ねたのがいけなかったらしい。

「大丈夫ですか?お水、もう一杯頼みます?」
「いや、いい。お前、プライドとかねーのか。」

落ち着いたらしい彼に、もう見慣れてしまった呆れ顔でじろりと睨まれる。

「ないですよ。もう万策尽きました。」
「そんな万策尽くしてねーだろ。」
「じゃあ、今までの彼女にはどうやって惚れさせられたんですか?」
「…お前、オレンジジュースでもう酔ってんのかよ。」
「失礼な。カシオレです。立派なお酒です。酔ってないです。」

はぁと息を吐いた先輩は幹事の所へ行って帰ってきたかと思うと、荷物を持って出て行ってしまった。先輩目当てで加入したであろう女の子達が残念そうに目で追いかけている。彼女がいると知っててもこんなにたくさんの人からモテる先輩に好きになって貰う方法なんて、思い付く訳がない。しょんぼりとオレンジジュース、もといカシオレを飲んでいると短くケータイが鳴った。届いたメッセージを確認して胸が高鳴る。

『抜けてこい、ウスラトンカチ。』

連絡先を交換した事すら忘れるくらい連絡した事がなかったのに。嬉しくて先輩からのメッセージをもう一度見返す。飲み会を二人でこっそり抜けるなんて、なんて高度な。

「遅い。」
「す、すみません。」

結局慣れない事であたふたしてしまい、二人で抜けたとは到底思われないだろう抜け方になってしまった。

「で?何が聞きたかった?」

別の居酒屋に入って飲み物が届くとそう問われた。カウンター席で並んで座ってるのに、顔を覗き込むように見られて目が合う。急に恥ずかしくなって自分のグラスを見つめた。

「あ、っと、どうやったら、」
「どうやったら?」

覗き込んできた顔を見ると意地悪く笑っている。続きを促してくる姿に意地悪!と内心毒付く。

「どうやったら、惚れてくれますか?」

見たことないくらい嬉しそうに笑って、わかんねーの、と問われる。

「お前の気持ち伝えてみれば?」
「気持ち?」
「なんで俺に好きになって欲しい?」

言われて頬が熱くなる。そう言われてみると、私、なんでこんな先輩に纏わり付いてるんだろう。嬉しそうな勝ち誇ったような笑顔が悔しいことに格好いい。グラスを傾ける横顔が綺麗で見惚れてると、横目に見られる視線と目が合った。

「ほら。」
「ほら、って言われても、自分でも何でか、よく、」
「正直に、好きって言えよ。」

思わず見上げた顔は今までの意地悪な顔じゃなくてドキッとした。優しく微笑まれている。かぁっと頬に熱がこもっていく。

「顔、真っ赤。」
「ちょっと、酔ってきたかも、」

片眉を上げてそうじゃないだろ、と表情だけで告げてくる。

「先輩。」
「何。」
「好き、です。」

何も言葉が返って来ないのに不思議になってそちらを見ると、先輩が肘をついた方の手で口元を隠している。

「先輩?」
「で?」
「え?」

先輩はこっちを見ないでグラスに残っていた中身を飲み干した。先を促される。

「あ、えっと、好きです、付き合ってください。」

恥ずかしくて目を瞑って言葉を待つ。言葉が来るより先に唇に柔らかいものが当たった。驚いて目を開けると先輩の整った顔がゼロ距離にある。伏せられていた長い睫毛がゆっくり上を向いて目が合った。顔が離れていく。

「目、閉じろよ。」
「あ、すみません。え、先輩、今のって?」
「いいぜ。」

ほんのり頬が赤くなった先輩が頭を掻く。いいぜ、という言葉が頭をぐるぐる回る。

「え、いい、って、付き合うってこと?」
「そう言ってんだろ。」
「せ、先輩、私のこと好きだったんですか?気付かなかったです。」
「黙れ。お前がだだ漏れなんだよ。」

自分で気付いて無かったのに先に気付かれるなんて。こんな恥ずかしい事はない。

「あの、彼女は?1人いるって。」
「別れた。」
「…私と付き合う為に?」

頬が赤いままじろりと睨まれる。

「どの口が言ってんだよ。調子乗ってんな。もともと終わりかけてただけだ。」

そう言って軽く頬を摘まれる。

「いひゃい。」
「付き合うからには全部切れよ。」
「?何を?」
「は?お前のセフレだろ。」
「セ、そんな人聞きの悪い!」
「ふざけた真似しやがったら秒殺だ。覚えとけ、ウスラトンカチ。」
「は、はい。」

本当にされそうで怖かったので、何度も何度も頷く。その様子にふっと笑うと頭を撫でてくれる。

「名前。」

初めて名前を呼ばれて顔を上げると一瞬触れるだけのキスをされる。

「ここ、うちの大学の奴結構バイトしてるからすぐ広まるな。」

そう言っていつもみたいに意地悪く笑う。その顔が好きで、なんで今まで気付かなかったんだろう、と疑問にさえ思う。

「先輩、意外と束縛強いタイプですか?」

自信家な彼の自信満々な所がたまらなく好きだ。