「もう中忍試験ですか。あっという間ですね。」
試験会場で見つけた先輩に声を掛けた。ご家族揃ってサスケくんの試合を見に来たらしい。久しぶりにお会いしたフガクさんに緊張丸出しで挨拶した私を先輩が面白そうに笑った。そして忍服の私を見て申し訳なさそうに眉を下げる。
「任務代わってもらって悪かったな。」
「いえ。先輩はサスケくんの勇姿見てあげないと。」
私チケット持ってなかったんで警備しながら見えてむしろラッキーです、と言うと、どこまで本気なんだか分からないな、と笑われた。
「じゃあ持ち場に戻ります。」
「あぁ。ありがとう。」
結局試験は木の葉崩しによって中断されてしまった。よりによってサスケくんの試合中だなんて、と苛立ちを感じながら敵を片付けていると先輩と背中合わせになった。
「折角非番だったのに、とんだ災難ですね。」
「余裕そうだな。安心したよ。」
彼が来てからそれまでの苦労が嘘だったかのようにあっという間に片付いた。さすが先輩だ。会場で戦っていた人はもうだいぶ片付いているようだ。しかし周りを見渡すも探している対象がいない。
「先輩、サスケくんが、」
「気配も随分遠く離れてるな。」
たまたま合流したカカシさんに事情を聞くと砂の忍を追っていると言う。さっと血の気が引く。急いで追いかけようとするのを先輩に止められた。
「そっちも気になるが、まずは里内だ。」
「何冷静に言ってるんですか?サスケくん、まだ下忍なんですよ?!人柱力相手に放っておけません!」
声を荒げた私の視界に一般人を襲った忍が見えて咄嗟に間に入った。冷静さを欠いているのは分かっている。それでも先輩だけでも援護に向かうべきだ、と主張した。その直後に敵に後ろから斬りかかられた。気を取られていて対処できないのを先輩に守られた。
「冷静になれ。俺だって追いかけたいさ。でも出来ない。それはお前も分かってるだろう。」
下唇を噛んだ。悔しい。こんな時には何も出来ない自分が歯痒くて仕方なかった。でも先輩は私よりも歯痒いはずなのに冷静に判断して里の為に戦っている。言葉が出なかった。
「名前、イタチ、此処は頼んだぞ。一般人の避難を最優先してくれ。」
私達に指示を出してカカシさんが消えた。どうか無事で。カカシさんも、うちはの皆さんも、火影様も、サスケくんも。祈ることしか出来なかった。戦火がようやく収まった頃火影様が亡くなったと知らされた。衝撃だった。足元が崩れ落ちていくような絶望だった。散らばって戦っていた先輩と合流すると抱き締められた。涙が溢れた。里の平和を何よりも願っていた先輩は火影様と何やら結託して動いていたのは知っていた。だからそれ以外の任務は何かと理由をつけて代わっていたんだけど、それすら先輩には気づかれていたようでいつも申し訳なさそうに笑われた。なのに、それが無くなってしまったらこの里はどうなってしまうんだろうか。ただただ不安だった。先輩も同じなのかもしれない。こんな風に誰かに縋るようにしている姿を見た事がなかった。少なくとも私の前では一度も。ゆっくりと私を離した先輩がサスケくんが里に向かっていると教えてくれた。無事だったらしい。足の力が抜けた。先輩が慌てて手を差し伸べてくれる。
「よかった、」
「あぁ。」
先輩も安堵したような表情だった。安心して急に敵につけられた傷が痛んで来る。先輩にもいくつか傷が見受けられる。救護班の特設テントへ向かった。
里に戻って来たサスケくんは先輩に連れられて私の所へやって来た。
「心配かけたな。」
気まずそうに目を逸らせてそう言うのがいつもの彼で思わず抱き付く。一瞬体を強張らせたけど控え目に背に手を回してくれた。
「無事でよかった。」
「名前も。」
耳元で聞こえた声が昔よりも低くなっている事に今更気づいた。ふう、と小さく息を吐いてから彼から離れる。笑いかけると不器用に笑い返された。照れてるのかな。衝動的に取った行動を思い返す。見た事ないはにかんだ顔を可愛いなと思いながら眺める。少しだけ私より身長が低い彼の額にキスするとその場所を手で押さえて耳まで真っ赤になってしまった。昔は逆の立場だったからなんだかおかしい。
「ふふ、サスケくん可愛い。」
「、うるさいっ、」
私と一緒に笑っていた先輩に怒りの矛先が向いたらしく、何笑ってんだよ、と怒られている。チンピラみたいな言い掛かりに先輩が、いや可愛かったから、と火に油を注ぐような発言をする。先の事は不安だけど今この瞬間はいつも通り幸せで胸を撫で下ろした。
突然近くにいた忍に呼ばれて先輩がその場を離れた。真剣な顔に戻った先輩が見える。まだ脅威は終わっていないのだろうか。一度顔を引っ込めた不安がまた湧き上がってくる。
「大丈夫だ。」
隣の彼が手を握って来た。そちらを見ると私を見上げてもう一度、大丈夫だ、と言った。先輩の方を見るともう話終わったらしくこちらに歩み寄って来ている。
「お前のことは俺が守ってやる。」
私にだけ聞こえるように言われた言葉に驚いて隣を見る。絞り出すように、ありがと、とお礼を言うと満足そうに微笑まれた。それが妙に大人びて見えて顔を逸らした。全身でドクドクと大袈裟に音を立てて脈打っている。握られていた手が離れていった。いつの間にか目の前まで戻って来ていた先輩が不思議そうに見て来る。
「どうした、顔真っ赤だぞ。」
「、いえ、なんでも、」
そうか?と言って、家まで送ると歩き出した先輩に続く。その後ろを歩きながら隣にいた彼がニヤリと意地悪く笑った。
「お前も可愛いな。」
それだけ言って先輩の横に並んだ彼の横顔を見つめたまま両手を口に当てて立ち尽くす。私が彼に可愛いと言った仕返しなんだろうけど、こんなの、反則だ。距離が空いてしまっていたので急いで追いついて家の近くで別れた。家に帰ってもまだ心臓が煩く鳴り続けていた。