01

「ガキには興味ない。」

キッパリとそう言って冷めた目で見られる。年の離れた兄さんと同期のその男はクールで無表情だ。その表情が変わるのが分かるくらいには彼の事が好きで付き纏っている。

「ガキって。7歳しか変わらないのに。」

フンといつものように鼻を鳴らして笑うと私の告白なんてなかったように平然と歩き出した。確かに冗談っぽく言ったけど気持ちは本当なのになと人知れず傷つく。7歳違うと言ってももう16歳になった。結婚だってできる年齢なのに。この年齢になるのを心待ちにしていたというのに。

「シカマルんとこ行くんだろ?コレも渡しといてくれ。」

そう言って何やら書類を渡される。任務の報告書だろう。

「自分で渡さなくていいの?私ガキだから中身見ちゃうかもよ?」
「じゃあいい。」
「、嘘、ちゃんと渡す。」

奪い取られそうになった書類を握って胸に抱いた。都合よく使われていても自分を頼ってくれたのが嬉しいなんて虚しい。なんなんだよ、と呆れたように呟いて火影塔とは別の方向へ歩いていく。家に帰るんだろう。曲がり角で見えなくなるまで見送ってから背を向け、火影塔へと向かった。

「シカ兄、サスケくんから。」

私から資料を受け取った兄はペラペラと中身を確認すると、おう、と返事をした。用事が済んだのでとっととその場を後にしようと思うと呼び止められる。

「今日は任務もう終わりだろ。」
「そうだけど。」
「手伝ってけよ。」
「…手伝ってくれよ、でしょ。」

憎まれ口を叩きながら足を止めるとニヤリと笑われた。火影参謀の仕事は忙しいらしく最近はほとんど家にも帰って来ない。重要機密に触れないような雑用はたまにこうして手伝っている。

「まだサスケに付き纏ってんのかよ。」
「相変わらず。」
「好きだな。」
「どうだろ。ガキには興味ないんだって。」
「へぇ?」

山積みの書類を一緒に運びながら会話をする。面白そうに眉をあげられて溜息を吐いた。意外と2人は仲が良いらしくたまに話しているのを見掛ける。私がサスケくんを知ったのも兄を通じてだ。あまり変な事は言わないでおこうと話題を変えた。

「テマリさんとは最近会えてるの?」
「話すり替えんなよ。」
「私明日から砂で任務だから、と思ったけど、じゃあ聞かないでおくね。」
「…そういうのは先に言えよ、めんどくせぇ。」

若干頬を赤らめて明日の出発時間を聞かれた。何かしら渡して欲しい物があるらしい。遠距離恋愛なんて私には無理だなと常々思う。その上極度の面倒くさがりの兄が珍しく長く付き合ってるときた。だから別にブラコンって訳じゃないけど砂の里に行く時には毎回一応話すことにしている。翌日早朝、里の門の前で他のメンバーを待っていると約束通り兄がやってきた。

「コレ、会えたら渡してくれ。」
「了解。じゃあ私の滞在日数1日伸ばしておいてくれる?」
「ちゃっかりしてんな。」

わかったよ、としょうがなさそうに言われた。用事が終わったらそそくさと歩き去って行く。今から職場に行くのだろうか。小さくなる猫背をぼんやりと見送る。兄が去って間もなくして他のメンバーが集まり出した。中忍3人、特別上忍1人のフォーマンセル。砂の里で開かれるお祭りの警備の応援だ。兄のおかげで私はゆっくりできるはずだ、と任務後すぐに帰らなきゃいけないマンセルのメンバーを少し哀れむ。せっかく砂まで行くんだ。帰りに温泉にでも浸かろう、と珍しく楽しみにしながら任務に向かう。

砂の里に着くと風影様の代理という事でテマリさんが迎えてくれた。兄から私が行くことを伝えられていたのかもしれない。抜かりのない男だ。メンバーが歩き去るのを見計らって彼女に声を掛けた。

「テマリさん、ご無沙汰しております。」
「よく来たな、名前。」
「コレ、兄から預かって来ました。」

箱を渡すと頬を緩ませて受け取ってくれた。気が強そうだけどこういう風にきちんと恋する乙女の部分があるのが同性から見ても可愛いと思う。ありがとう、とお礼を言われて会釈をし自分の持ち場に向かった。会えたら渡してくれ、なんて言われたけどこれじゃあ渡すために来たようなものだ。頭の切れる兄を思い出して苦笑する。ちゃっかりしてるのは私じゃなくてシカ兄の方じゃないか。

祭りが始まると想像していた以上に大勢の人で賑わっていて、そりゃあ警備の数も必要になる訳だ、と1人納得する。砂の里のお祭りは初めてで休憩時間になるなりブラブラと歩き回る。木の葉ではみないような出店が出ていて見ているだけでも面白い。

「奈良シカマルの妹、だったか?」

声を掛けられて振り向くと風影様だった。

「風影様、ご挨拶遅れました。奈良の妹で名前と申します。」
「名前か。畏まらないでくれ。俺も祭りを楽しみに来ただけだ。」
「私初めて来ましたけどすごく素敵なお祭りですね。」
「あぁ。」

あまり表情の変わらない風影様はそれでも柔らかい表情をしていて、里のことが本当に好きなんだと思わされた。

「1人か?」
「はい。任務のローテーションで1人ずつ交代で休みを取ってるんです。」
「そうか。俺も1人だから丁度良かった。少し付き合ってくれ。」
「もちろん、光栄です。」

私の事を知っていたという事はテマリさんが話したのかもしれない。気を遣ってくれているのだろう。初めてだと言った私を気遣うかのように、案内するようにぐるりと祭りを一緒に回る。途中りんご飴を買って貰って頬張る。射的を見つけて対決をした。サボテン探しという、金魚すくいが砂とサボテンになったような遊びも教えて貰った。気を付けないと忘れてしまうくらい風影様は気さくで、任務なんかじゃなくこの為に来たのではないかと錯覚してしまいそうになる。

「ほら、余所見してるとはぐれる。」
「あ、すみません。」

風影様がはぐれないようにぴたりと隣に並んだ。こういう所に気を配れないから、サスケくんにもガキだって言われちゃうのかな。喧騒の中、急にカップルが目につくようになった。射的で景品を取って貰ったり、アイスを食べさせ合ったり、手を繋いでいたり。急に彼らが羨ましくなった。そんな時、不意に曲が掛かって砂の伝統的な踊りだろうか、みんなが踊り出した。楽しそうだなと目を向けていると食べ終わっていたりんご飴を手から抜き取られ、空いた手を引かれた。

「?風影様?」
「踊るか。」
「?え?!私、踊れないです!」
「気にするな。」

気にするなと言われても、と焦る私を人混みの中に連れて行かれる。リードされ彼の動きに合わせていると小さく楽しそうに笑う声が聞こえた。風影は世襲制だと聞くから幼い頃から祭りさえ楽しめなかったのかもしれない。少しでもお役に立てているようで安心した。曲が鳴り終わると拍手が響いて集まっていた人々が散らばって行く。

「名前!探したぞ。お前、何、」

特上の隊長が走り寄って来て思わず時間を忘れて楽しんでしまっていた事を後悔する。隊長は私の手を引いた風影様を見て言葉を引っ込めお辞儀をした。

「!すみません、私時間忘れて、」
「俺が連れ回したんだ。すまない。」

謝る私の言葉を遮って風影様が隊長に言った。風影様は何も言わない隊長を困ったように見てから私の方を見直る。

「ありがとう。」
「、こちらこそ、ありがとうございました。ものすごく楽しかったです。」
「俺もだ。」

穏やかにそう言ってゆっくりと歩き去っていった。思い出したように隊長に話し掛けると次の担当の所まで連れて行ってくれる。随分焦っていたようだったので丁重に謝るも、いや、それはいいんだ、と歯切れ悪く返された。その後も滞りなく任務を遂行し、無事お祭りの警護が終わったのは夜が深まる時間帯だった。宿に向かう道中、明日には木の葉へ向かう残りの隊員達にあと1日残る事を伝える。隊長は風影様と過ごすと勘違いしたのかニヤニヤと見て来て、違いますからね、と何度も否定した。

翌日昼前に目が覚めて予約していた温泉宿に向かうべく仕度をした。女が1人で温泉だなんて寂しいだろうか。こういう所は無頓着なようで自分では気にならない。優しい兄の名前をお借りして領収書を切って少しお高めの宿を取ってある。浮き足立って宿に向かった。地図を元に辿り着くと外装から高級そうな雰囲気が漂っている。高揚感で任務の疲れも吹き飛ぶ気がした。女将さんが迎えてくれて緊張しながら部屋へと向かった。

「お連れの方は先にお着きで、部屋にお通ししてあります。」
「?あの、私、今日は1人で、」

部屋のドアを開けられ中に入ると確かに靴がある。誰にもここに来る事は言っていないのに、どういう事だろうか。気を張りながら部屋の中へ入る。

「お着きになられましたよ。」

丁寧な言葉に振り向いたのは私が付き纏っている彼で思考停止してしまった。此方を一度見た彼は固まる私の代わりに女将さんに挨拶してくれて、ドアが閉まる音がした。

「とりあえず座れよ。」
「なん、え?なんで此処、」

言われた通り腰を下ろしながら疑問を口にした。机の角を挟んで隣に座っている彼は頬杖をついてこちらを見ている。

「シカマルに此処に来るよう言われた。」
「シカ兄?なんで知って、あ、領収書切ったから?」
「知らねーけど。温泉宿で1人泊まりたいみたいだけど、自殺願望ある客と警戒されたら可哀想だから行ってやってくれだとよ。」
「どこ気回してんのよ。」

彼がくすりと笑って湯呑みに口を付ける。ようやく思考が追いついてきた私の方をチラリと見て困ったように笑った。その表情が見た事ないくらい優しくて急に緊張し始める。

「あと、風の国、未成年は保護者いないと泊まれないだろ。」
「そうなの?」
「知らなかったのかよ。」

態とらしく溜息を吐かれた。彼の口ぶりだと保護者として来たんだろう。Dランク任務とでも称して兄が依頼したのかもしれない。彼と一緒に居れるのに子守要員か、と一度膨らんだ期待がみるみる縮んでいく。

「ありがとうございます。」
「あぁ。」
「それならテマリさんに頼んでくれれば良かったのに。」

可愛くなく憎まれ口を叩く。わざわざ此処まで来てくれた人を前に言う言葉じゃないのはわかっているのに思わず発していた。彼は意に介した様子もなくフンと笑った。

「安心しろ。ガキには興味ない。」

もう聞き慣れてしまったいつもの拒絶の言葉なのに、表情は普段のそれよりうんと柔らかくて拍子抜けしてしまう。再び固まる私を置いて彼は浴衣を持って部屋を出て行ってしまった。単に高級温泉旅館に泊まってみたかっただけというのもありえる。マイペースに私の心をかき乱して来る男に大きく溜息を吐いた。