彼は私が着くまで待ってくれていたらしく、内風呂は使われた形跡がなかった。宿の写真を見た時にこの内風呂が素敵すぎて即決したのだ。彼が帰って来る前に入ってしまおう、と荷物の整理もそこそこにお風呂に向かった。小さな箱庭に置かれた浴槽に並々と湯が注がれている。少し肌寒い空気がちょうど良い。塀の周りを囲むようにして植えられた竹が絶妙に雰囲気を出している。1日立ちっぱなしでパンパンだった足が癒されて行く。風影様と祭りを回ったのを思い出してそっと頬を緩ませた。踊り慣れてない私を揶揄うかのように体を持って揺すられてきゃーきゃー言いながら風影様と踊ったのを思い出した。
「楽しかったな。」
ポツンと声が響いた。里の人にも慕われているようだったな。あんなに気さくなら当然だろう、と考えていると部屋に気配が戻って来ているのがわかった。もう帰って来たのか。まだ浸かってたいけど長湯して彼と鉢合わせても嫌だしな、とぐるぐる考えていると無遠慮にガラッと入口が開く音がした。
「飯、届いてんぞ。」
彼は全く表情も変えずにそれだけ言って部屋の中に戻っていった。言葉にならない声をあげる。慌てて風呂から上がって浴衣に腕を通し部屋へと戻る。不機嫌さを抑えきれなくてドアがスパンと音を立てて閉まった。
「サイテー!普通に入って来ないでよ!」
「見られて減るような大層なもんでもないだろ。」
「、そういうのがサイテーって言ってるの!」
不貞腐れる私を申し訳なさそうに見て、悪かったって、と思ってもいなさそうな謝罪をされる。浴衣を着た彼は胸元を大胆に晒していて、思わずはだけてると指摘する。
「どこ見てんだよ。」
「、目のやり場に困ってんの。」
着方分からないなら直してあげようか、と言うと、暑いからこれでいんだよ、と言われる。私はよくないのに。1人優雅に過ごすはずだったのにこれじゃ台無しだ。何度目かの溜息が出た。しかし目の前の豪勢な食事はやはり嬉しくて無言で箸を口に運ぶ。昨晩は結局あのりんご飴くらいしか口にしていない気がする。繊細な味付けの料理に自然と頬を緩ませると彼がこちらを窺うように見てきた。
「美味そうに食うな。」
見た事ないくらい優しい表情で言われて頬が熱くなった。里じゃないからか、今日の彼は私の知っている彼じゃないみたいだ。熱がどんどん広がって顔全体が熱くなる。熱いのはお風呂から上がったばかりで温かいご飯を食べているからだ、と必死で自分を誤魔化す。
「そんな照れられると、なんか悪い事してる気分になる。」
「…大丈夫でしょ。ガキには興味ないんでしょ?」
赤い顔で憎まれ口を叩いても効かなかったようでくすりと笑われた。
「わかんねー奴。」
「私はサスケくんの方が分かんないよ。」
「あんな付き纏ってたかと思うと普通に突き放されるし。」
「…戦略、変えてみようと思って。」
「あぁ、そうだな。もっと上手く誘ってみろよ。」
楽しそうにそう言われ、それって上手く誘えたら乗ってくれるという事なんだろうか、と少し期待してしまう。でもその言葉は同時に私のやり方は彼が相手するような大人の女性とは違うと再度突きつけられているようでもあった。複雑な心境で箸を進める。
「任務、どうだった?」
急に話題を変えられ一瞬間が空いた。
「特に変わったことはなかったよ。お祭りの警備だったんだけど楽しそうで羨ましかったな。」
「へー。」
聞いたのは自分なのに面白くなさそうに相槌を打たれた。
「サスケくんも里外任務だったの?」
「、いや。別に。」
彼はそれだけ言うと目を伏せて黙々と食事を食べ出した。何だったんだろうか。よく分からないけど、好きな人とこんな風に同じ空間にいるのが気恥ずかしい。ご飯を食べ終わってすぐ大浴場へと向かった。