04

どうしたら真剣に取り合ってくれるんだろうか。肉体関係を結んでしまえば彼も流石に意識してくれるだろうか。どうしたらもっと上手く誘えるんだろうか。一方通行な思いを表すかのように、此方に背を向けた彼の背中からはとっくに規則正しい寝息が聞こえてきている。横になっている所為で涙が重力に従って鼻筋を通っていくのが気持ち悪かった。彼に気付かれないようにそっと涙を拭った。

翌朝目が覚めると彼はとっくに身支度できているのが目に入って、まだ眠たい目を擦って起き上がった。

「よく寝てたな。」
「もう出る時間?」
「チェックアウト1時間前だ。起きたなら着替えろ。」

身支度を促した彼は腰を上げフロントに電話している。もう出る準備をしているのかと眠たい頭が叩き起こされた。慌てて着替えを持って洗面所に駆け込む。

「お待たせ!」
「飯食うだろ。折角だし。」

急いで部屋に戻った私と対象的に彼は再び机の前に座っていた。いつの間にか届いていた豪勢な朝食に拍子抜けする。あんまり遅くなると私を置いてさっさと発ってしまうのではないかと焦ったけどそういう訳ではなかったらしい。先程連絡していたのはこの為だったのか。不器用だけどやはり優しい。朝食を摂ってから荷物を纏めて部屋を後にした。女将に丁寧に見送られながら宿を出る。

「凄くいい所だったね。」
「あぁ。シカマルに礼言っとけよ。」
「普段こき使われてるから、これぐらいして貰ってトントンかな。」
「…可愛くねー妹だな。」

いつも通り他愛のない話をしながら里へと向かう。彼は私が走る速さに合わせてくれているらしく置いていかれることは無かった。どうやら里まで送ってくれるらしい。平和になったとは言え中忍一人で森を抜けるのは実は少し不安だったので嬉しかった。

もうじき木の葉に着く。見慣れた景色の場所になって完全に気を抜いていた私の隣で彼が呟いた。

「止まれ。」

手で止まるよう制される。声を潜めて辺りを見回している様子を見て緩みきっていた緊張の糸が一気にぴんと張る。生憎私には何も分からないので言われるがままに息を潜めた。

「うちはサスケも一緒か。分が悪いな。」

堂々と姿を現したのは砂の抜け忍らしい3人組だった。背を嫌な汗が流れる。

「砂からずっとつけてきてるな。目的は何だ。」

全く気付かなかった自分が恥ずかしい。あんなにいつも通り軽口を叩き合っていたのに、彼はこの人達に気付いていたと言うのか。素直に驚いた。ここなら木の葉から近い。戦闘になっても援護が得やすいと思って声を掛けたんだろう。チラリと隣を見ると写輪眼になっていて戦闘体制はすでに整ってるらしかった。

「風影の女。なかなか揺する道具が見当たらなかったけど、ようやく尻尾出しやがった。風影も人間だったって訳だ。悪く思わないでくれよ?」

サスケくんと言葉を交わしていた奴らが私の方を見た。

「…私?!違います!人違いです!」
「何寝惚けた事言ってんだ、祭りで踊ってたのバレてねーとでも思ってんのか!」
「あれは、偶々、」

最後まで聞いてもらえず飛び掛かってきた。サスケくんが、下がってろ、と言って剣を抜く。3対1なのに無駄のない動きで私の方へ来ようとする抜け忍を1歩も進ませない。彼が戦っているのは初めて見た。噂には聞いていたけどこんなに強いとは知らなかった。呆気にとられていたからか、随分近くに来るまで背後にある気配に気付かなかった。3人ではなく4人だったらしい。咄嗟に飛び退くも足首を掴まれ逆さまに持ち上げられる。お腹に鈍い痛みとともに拳が入って咳き込んでしまった。

「名前!」

サスケくんが呼ぶ声がした。逆さになったせいで頭に血がのぼりぼーっとし始める。サスケくんの背後ではまだ2人立ち上がろうとしている。目の前の男は自分で何とかしなくては。クナイを取り出し斬りつけて、一瞬出来た隙を見計らって着地した。何とか距離を取る。土遁の壁が迫って来る。風遁で切り崩そうとしたけど跳ね返されてしまった。壁に押し付けられて男に逃げ場を奪われる。

「ちょこまか逃げやがって。」

顎を持って上を向かされる。自分だって弱い訳ではない。現に中忍として任務も頂いている。その自分をいとも簡単に壁に張り付けられてひたひたと恐怖が襲って来た。目の前の屈強な男に勝てる気は微塵もしない。サスケくんが相手をしていた3人もそれなりに手練れだったように見える。この状況で私達が生き残るにはどうしたらいい。ぐるぐると思考を巡らせる。私が実力で劣っているのは明らかだ。サスケくんが強いのは分かっているけど、私を守りながら4人を相手するのはさすがに厳しいだろう。そうなれば。でた結論に思わずごくりと喉を鳴らす。私が大人しく付いて行ってその間に援護を呼んで貰うしかない。

「貴方達について行ったら、彼には危害加えないでくれる?」

震える声を隠すように語気を強めて言うと目の前の顔がニヤリと歪められた。

「話が分かるじゃないか。気に入ったぜ。」

頬を手で掴まれ思わず顔を背けるとドンと再びお腹に拳を入れられた。涙が滲む。痛みに気を取られていた私を肩に抱え男が歩き出した。俵でも抱えるかのように雑に抱えお尻をペシペシと叩かれた。羞恥と怒りが同時に湧き上がる。不安定に揺れる体にバランスが崩れないよう大人しくしていると周りを囲っていた壁が一気にガラガラと崩れ落ちた。ウッと声を上げた男にふと顔を上げるとサスケくんからチャクラ刀が伸びて来ている。男の背中に命中したらしい。不意打ちを受けた男は怒りを露わにし、私を脇に投げ捨てた。急な事で体勢を整え切れず目前に木が迫ってくる。両手で頭を守った。

「っつ、大丈夫か。」

構えていた衝撃は来ず、目を開けるとサスケくんに抱きかかえられていた。私を庇って木にぶつかったらしく顔を歪めた。

「サスケくん、」
「ここで待ってろ。」

それだけ言うと私を投げ捨てた男の方へ向かっていく。不謹慎だけど先程抱き抱えられた時の余韻に浸ってまだ胸がドキドキしていた。心ここに在らずな私の耳に男の叫ぶ声が聞こえてきた。意識を呼び戻されて其方を見るとサスケくんがゆっくりと此方に向かって来ていた。服に付いた返り血が先程の男の叫び声の意味を告げている。私の推測より彼は強かったらしい。呆気にとられる。

「怪我は?」
「大丈夫。私よりサスケくんが、」

言い終わる前に抱き締められた。只でさえ早かった鼓動がどんどん速くなる。

「無理するな、震えてる。」

言われて両手が震えているのに気付いた。彼の言葉からこの行動には恋愛感情が含まれていないと分かってはいるのに心拍数は上がったままだ。怖かったのも事実。それならこの状況に甘えてしまおう、と彼の背中に手を伸ばす。

「よく頑張ったな。」

ぎゅっと先程より強く抱き締められた。珍しく甘やかしてくれるもんだから気恥ずかしくなってしまう。頑張ったのはサスケくんなのに。こんなだからガキだって言われてしまうのに。

「ありがとう。」
「あぁ。」

頭を優しく撫で体が離れて行った。立てるか、と手を差し伸ばされ何も考えずに手を乗せた。大きな手に掴まれぐいっと引き起こされる。もう手は震えていないのに手が離されそうな気配はない。里に着くまでずっと手を引いてくれていた。