05

「災難だったな。」

火影室でサスケくんから報告を受けた兄がそう言った。繋がれていた手は里の門に入る時に自然と離された。それでもまだあの大きな手の感覚を忘れられない。

「人の金で贅沢しようとするからそういうことになんだよ。天罰だな。」
「…ごめん、シカ兄。」

返す言葉が無くて素直に謝ると意外だったのか、いや、まぁ無事でよかったけどよ、と気まずそうに言われた。

「それにしても珍しいよネ。風影くんがそういう事するなんて。」

火影様が意外、と呟いた。私はあまりよく知らないけど、風影様を知る人から見ると意外な出来事だったようだ。

「気を遣ってくれたんだと思います。兄の妹だって知ってたので多分テマリさんから聞いて一人でいるの心配してくれたのかと。」
「…あれは普通に楽しんでただろ。」

私が言い終わるなり隣の彼がボソッと呟く。そちらを向くと何か言いたげな目を向けられた。

「そういやサスケも行ってたよな。そんな目立ってたか?このバカ。」

バカって何よ、と兄を睨む。隣に立っている彼は一つ溜め息を吐いて口を開いた。

「まぁ。あの我愛羅が楽しそうに踊ってたら気にもなるだろ。誰かさん、キャーキャー楽しそうにはしゃいでたしな。」
「…え、サスケくん、いたの、」

あのお祭りの場に彼も居たというのか。驚いて、見られていたと言うのがなんか嫌で、思わず言葉に出してしまう。知らなかったとは言え彼が居るのに気付かなかったなんて。目を真ん丸にしたまま見つめると、サスケくんは顔を逸らしてしまった。

「珍しいな、サスケバカなお前が気付かないなんて。」

それじゃただのバカだな、と兄に言われる。バカバカ言わないで欲しい。

「ま、報告が行けば次回から風影も気をつけるでしょ。お互い良い勉強になった、ってとこかな。サスケお手柄だったネ。」

報告が終わってサスケくんと火影室を出た。ズカズカと先を行ってしまう彼に小走りで追い掛けて話しかけた。

「サスケくん、あの、本当にありがとう。」
「もういいって。」
「お祭り、サスケくんと回りたかったな。班も違ったしローテーション一緒だったかも知れなかったのに。…そしたら楽しい任務になったよね。」
「、我愛羅と十分楽しんでたじゃねーか。」

放たれた声はいつもより低くいつもより冷たい。もしかして、と浮かんだ可能性に自然と頬が緩んだ。足を止めて口を両手で覆う。いや、まさか、彼が。急について来なくなった私を怪訝そうに振り返ったサスケくんはまだ不機嫌そうな顔をしている。

「なんだよ。」
「、ヤキモチ?」
「…は、違ぇよ!」

少し離れた所からでも頬が赤くなっているのが分かった。色白さんだから赤くなると目立つな、と普段クールな彼を思う。

「ヤキモチだったら嬉しいな。」

不機嫌そうな癖にちゃんと止まって待っててくれる彼に歩み寄り手を取った。振り払われるかと思ったのにそのままにしておいてくれた。

「…私はいつもサスケくんと同年代の女の人にヤキモチ妬いてるから。」

彼の大きな手を両手で持つ。私を守ってくれた手だ。放り投げられた私を庇ってくれた、安心させようと抱き締めてくれた手。勝手に里に帰るまでと同じように繋ぐ。なぜか本心を言ってしまって後から恥ずかしくなってきた。何も言わない彼を窺うように見ると目が合って、すぐにパッと顔を逸らされてしまった。

「、なんか言ってよ。」

耐えられなくて手を離して俯いた。ガキにいつも嫉妬されてるとかキモいかな。先程勢いに任せて放った言葉を後悔しているとポスンと頭の上に重みが乗った。先程まで繋いでいた手が頭に乗せられている。

「まぁ、ギリギリ及第点ってとこだな。」

一瞬何のことか分からなくて首を傾げる。目が合ってぐしゃぐしゃと頭を掻き撫でられた。重みが無くなったかと思うと彼はそそくさと歩き出してしまう。及第点って?と考えて、もっと上手く誘ってみろよ、と言われたことを思い出す。及第点。合格するために必要な最低限度の点数だ。つまり合格ってことだろうか。上手く誘えたということなのだろうか。一気に顔が熱くなる。彼の背中がもう遠くにある。猫背気味に後頭部を掻いたのが見えた。思いっきり走ると段々と距離が縮まる。背中が近づいてくる。追い付いて腕の隙間に手を入れ勝手に腕を組んだ。また鬱陶しそうな顔をされているだろうか。いや、眉間に皺を寄せた顔もありえる。心して彼の方を見上げるとはにかんだ笑顔を向けられた。サスケくん、そんな顔もできるんだ。破壊力バツグンすぎて思わず頬が緩む。

「嬉しそうだな。」
「ここ数十年で1番嬉しい。」
「お前まだ16年しか生きてないだろ。」
「、だから、人生で1番嬉しいよ?」

はぁと溜め息を吐いた彼を見上げるとしょうがないという顔をしている。絡ませた腕から彼の体温が伝わってきて心臓の音が煩くなる。夢みたいだ。全然縮まらなかった距離が少し縮まった気がする。

「16も23も四捨五入したら20だから同い年だよ。」
「…偶に賢いのかバカなのかわかんねー時あるよな。」

賢いのは兄だけなんだけど兄効果で私も賢く見えるらしい。照れ隠しで言った言葉が余程気に入ったのかサスケくんが声を出して笑った。いつもみたく、フンって笑うのも好きではあるけど、そんなに手放しで笑われると心臓が壊れてしまいそうだ。

「ちょっと、離れろ。」

ひとしきり笑い終わった彼は、それまで何も言わなかったのに少し腕を動かして引き抜いてしまった。ギリギリ及第点のご褒美はもう終わりらしい。次はいつになるやらと名残惜しく思う。

「それ以上心拍数上がったらぶっ倒れそうだからな。」

勝ち誇ったように見下ろされてかぁっと顔が熱くなる。密接していたから聞こえてしまったようだ。

「…あと、胸あたってんだよ、ウスラトンカチ。」

もっと気遣え、と吐き捨てるように言われた。そんな事考えもせず腕に纏わり付いていたので恥ずかしくなる。

「ご、ごめん、」

彼も心なし頬を赤らめている。代わりにと言わんばかりに手を繋がれた。里まで連れ帰ってくれた時みたいにしっかりと繋いでくれる。きっと小さな一歩なんだろうけど、私にとってその一歩は大きくてずっとこの時間が続けばいいのに、と本気で思った。

家まで送り届けてくれた彼は照れ臭そうに、じゃあ、と言って背を向けた。離れて行った手が寂しい。でもそれ以上に私を女性として扱ってくれているのが嬉しかった。

「ありがとう!大好き!」

家の前にも関わらず叫ぶ。彼は振り返って黙れとでも言いだけにジロリと見た後、背中越しに手をあげた。それだけでもう幸せだった。