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腐れ縁といえばそうなのかもしれない。猪鹿蝶トリオと呼ばれる幼馴染とはまた違った腐れ縁だ。会えば憎まれ口を叩き合う。女にしては珍しく将棋にも付き合って来て俺といい線まで闘う。忍術も体術も満遍なくこなす癖に「痛いのが嫌だ」と戦術班に所属している其奴は、一言で言えば変わった奴だ。年は自分とそんなに変わらないけど、彼女のたてた戦略の成功率が高いとここ最近専ら噂になっている。自分と同じタイプだというのは嫌と言う程分かっていた。

「里の警備配置の改訂版、火影様に渡したからよかったら見てね。」

廊下ですれ違った時にニコリと笑ってそう言われた。警備配置は先月自分と六代目で考えたばかりだ。どこに不備があったと言うのだろうか。面白くない。

「そりゃどーも。管轄外まで手ぇ出すなんて随分余裕があるんだな。」
「暗部総隊長のご要望だから優先しただけだよ。」

それは自分の出した案に暗部総隊長が不満を持っていたという事だろうか。底意地の悪い奴だ。一度口角を上げると長いストレートの髪をなびかせて立ち去ってしまった。

「六代目。」
「お、丁度良かった。警備の配置でちょっと相談したかったんだよね。」

そう言ってちょいちょいと手招きされる。苛立ちを表に出さないように気を付けて呼ばれた方へ近寄った。

「こうした方がいいんじゃないかって言うんだけどね、どう思う?」

机に広げられた巻物を確認する。大幅な変更点はただ一点。最後まで迷った箇所だった。

「ほら最後まで議論になったじゃない、此処。あの時は思い付かなかったけど、こういう手もあるか、と思ってな。」
「…悪くはないっすね。」

何通りか考えた中で実現可能性がなさそうだと思った案だ。過去データが無いしやってみないと上手くいくか分からない。今の候補も完璧ではないけど手堅さでは一番なので選んだのだ。戦術班として日頃から触れる、言わばアイツの得意分野。成功体験の多いアイツから見たらこちらの方が良かったんだろう。

「戦術班の苗字っすか?」
「ん。暗部総隊長が大層お気に入りでね。彼女の戦術は一見トリッキーに見えて実践してみたらいつも確実だって。」
「…試しに短期間試してみて、うまく行きそうだったらこれに変更するのはアリだと思います。」

そう、と言って巻物を巻き直した彼は別の話題に移った。

昼休み、息抜きに屋上に行くと先客がいた。無防備に大の字に寝そべっている。

「ストーカーかよ。」
「後から来たの奈良の方でしょ?人聞き悪いなー。」

上体を起こした彼女はふわりと笑った。普段はそれこそ此方から戦術班の所へ出向かわない限り全く会わないのに、こうして偶然会うという事は彼女が意図してそうしているというのは分かっていた。たまにしか来ない屋上でこうして会ったのだから尚更だ。

「なんであれが良いと思った?」
「種明かしあんまり好きじゃないんだけど。」
「話したいから俺のこと待ってたんだろ。」

やだやだ、賢すぎるって怖いね、と戯けて言われる。

「奈良も考えたと思うけど、今の配置が一番無難なんだよね。他国でも賞賛されるレベルに精度高いと思うし。」
「けど?」
「…けど、一つ的があれば皆そこを狙いたくなるでしょ?今は里も人手不足だし、いざとなればそこだけ厚くすればいいって言うのが情勢に適してるかなって。」
「あんな罠とは分かりにくいレベルに緩ませるの、お前じゃねーと思い付かなかっただろうな。」

キョトンとした後彼女がほんのり頬を赤らめた。

「奈良だって気付いてるじゃん。まぁ私はこれでお給料いただいてますから。…今回は私の勝ちかな?」

照れ隠しなのかそう言うと立ち上がった。同じくらいの頭脳を持つ存在はお互いに貴重だ。前はたまに会ったり将棋を指したりしていたけど、最近はめっきり会わなくなっていたから退屈していたのかもしれない。ライバル視されているのは知ってる。自分も何だかんだこいつの動向は気になってしまう。そんな相手に珍しく褒められたのが恥ずかしかったのだろう。強気に言った彼女を見て、素直に喜べばいいのに、とほくそ笑む。

「忙しすぎてムッツリ度合い増してるよ。」
「お前の攻撃性の増え方に比べたらマシだろ。」

少し強めの風が吹いてサラサラと長い髪が揺れる。顔にかかった横髪を耳にかけるその姿に見惚れてしまった。

「攻撃されたくなかったら、たまには将棋でも付き合ってよ。」
「負けてもいつもみたいに文句言うなよ。」

嬉しそうに笑った彼女が背を向け屋上から出て行く。バタンとドアが閉まった。女には優しくしろ、って口煩く言われて育った筈なのに何でアイツにはできねーかな。タバコを取り出して火を点けた。