六代目に至急来るようにと呼び出された。最近は特に急ぎの案件は無かったと思うけど、と不思議に思いながら火影室へ向かう。ドアの前に立つと話し声が聞こえて来る。先客らしい。入口をノックするとどうぞと返事が帰って来た。
「六代目。お呼びですか?」
「待ってたよ。」
助かったと言わんばかりの表情をされる。暗号班の人と任務帰りだろうか所々傷を負った忍が居た。一目見ただけでも分かる。緊急事態らしい。
「戦術班が砂の里でのシンポジウムに参加してたんだけどね、帰り道に襲撃に遭って苗字が捕まった。」
「な、」
「咄嗟にメッセージ残してくれてたみたいなんだけどちょっと見てくれない?」
差し出された紙切れを見ると暗号らしかった。咄嗟に残したと言っていたし、そんなに難しいものではなさそうだ。現に暗号を解いたのだろう、鉛筆で何やら書き込まれている。暗号班の人に目を向けると苦笑された。
「暗号は解けたのですが、何の事を指しているのやら。」
自分のスピードで話せないと嘆いていた彼女を思い出した。気を回せなくて肝心な時にクセが出てしまったらしい。渡された紙切れを見ると解読鍵が省略されている。自分はこの様式を見た事があったから良かったものの、誰も知らなかったらどうするつもりだったのだろうか。
「雲隠れ、砂の里東門、東南10キロ、もう一回、っすかね。」
視線が集まる。
「いや、そう書いてるんで。」
「雲隠れ?…そうか、前に苗字の戦術で荒くれ集団の討伐をしたような、」
同行していたらしい忍が呟く。六代目が、暁に憧れて悪さしてた奴らね、と相槌を打つ。
「アジトの場所、確かその辺りだったよね。」
その言葉に慌てて資料を漁る。六代目の言う通りアジトの場所が一致していた。
「ビンゴっすね。」
もう一度紙に目を落とす。暗号を解いて出てきた文章を規則的に飛ばして読むと先程のメッセージになる。親父が好んで使っていた暗号だ。俺が目を通す事を見越してたんだろう。しかし何故か腑に落ちない。何か見落としてる。直感的にそう思った。あの捻くれ者がそんな素直な暗号残すだろうか。だいたいもう一回って言葉は不自然すぎるだろ。
…もう一回?
以前対局した時に悔しそうにその言葉を言った彼女を思い出す。解読前の文字は丁度81個ある。将棋盤の目と同じ数だ。前回自分のと彼女の王将があった場所を見た。戻と守。まさか。六代目が暗部と何人か招集をかけるように話しているのが聞こえた。
「待ってください。」
一瞬しんと静まり返った。どうした、と続きを促される。
「イノ呼んでください。一応解毒剤持ってくるよう伝えて貰えると。」
わかった、と六代目が人員に加えるよう指示する。
「出来れば感知タイプもいた方がいいんすけど、」
「誰か待機してるか見てきて。」
暗部が瞬身で向かった。何かあると踏んだのかさらっと人払いをした目の前の男に感謝せざるを得ない。
「どういう事?」
二人きりになった火影室で訊ねられた。鋭い眼光は自分が知ってる戦場でのカカシ先生で途端安心感が湧いて出る。
「罠っす。里に仕掛けて来ます。警備配置を元に戻せと書かれてます。」
「確かなの?」
「ほぼ100%間違いないっす。」
そう、と呟かれた。
「うーん、戻すと1つ1つの守りが脆くなるからね。このままで苗字の戦術が上手く行く事に賭けちゃダメ?」
「…信用していいんすか、あんな奇抜な案。」
「お前がゴーサイン出したんだからそれなりに勝算あるんでしょーよ。」
ゆったりした口調でそう言ってすぐさま緊急招集をかけた。現在里にいるメンバーで警備を厚くするよう作戦会議をする。自分と六代目以外は解せんというのがありありとわかる表情をしている。それを何とか思う方向に纏めた六代目は再び二人だけになった拍子に口調を緩めた。
「救出はあんまり人割けないけど。」
「わかってます。その事なんすけど、俺、行ってもいいっすか?」
ノックする音が聞こえて自分が頼んだメンバーが揃って火影室に入ってきた。本当に必要最低限のメンバーだ。それをチラリと確認した六代目は小さく頷く。
「じゃあ隊長はシカマルで。すぐ向かってくれ。」
その言葉を聞いて里の門へと向かった。前回の将棋で自分が王手を掛けた手。その駒の位置にあった待という字。来るな、というメッセージだろう。それは自分には助けてくれとしか見えなかった。咄嗟に思い出せる程覚えていたと言う事は負けたのが相当悔しかったらしい。早る気持ちを抑えて走りながらメンバーに簡単に状況を伝える。感知タイプの奴に誘導され指定された場所まで到着した。予想通り拍子抜けする程手薄だ。イノが青ざめたのを見て慌てて中に入った。
「なんだ、これ、」
残っていたそんなに多くない敵は全員倒れていた。想像していなかった光景に嫌に心臓が高鳴る。入り口近くで倒れてる其奴を見つけて近寄った。
「苗字!」
傷だらけで細く息をしている。自分の膝を立てて凭れかからせた。イノが治療する。自分の元にくる援護は手薄になる事を見越していたんだろう。もしかしたら来ない事も覚悟していたかもしれない。何とか自力で抜け出そうとしたらしい。イノが、名前さん、と呼んだ。薄っすらと開いた目で辺りを見渡して俺を見てこれでもかと目を見開いた。
「なんで?!」
急に凭れかかっていた体を動かしたから完全に塞がってない傷が痛んだんだろう。一瞬顔を歪めた。しかしそんな事はどうでも良いと言うように両手でベストを掴まれた。
「暗号見なかったの?!私なんかいいから早く里に戻って!」
「見た。奇襲しようとしてるってのも六代目に伝えた。」
大きく見開いた目が揺れた。ベストを掴んだ力が緩む。
「警備、奈良の案が正解だった。」
口出ししてごめん、と塩らしく謝られる。
「さぁ、それは帰ってみないとわかんねーけど。」
「、警備配置、戻したんだよね?」
「六代目も勝負師だよな。あのクソ奇抜な案が上手くいく事に賭けよう、ってよ。」
目の前の顔がさっと青くなる。イノが制止するのにも構わず立ち上がった。
「皆さん、至急戻ってください。まだ間に合うかもしれない。」
そう言って俺とイノの背中を押してくる。まだ力が残っていたのかと驚いたのも束の間、ガクっと膝を折って倒れそうになったのを咄嗟に抱きかかえてやる。
「そっちは指示出してある。大丈夫だ。」
「何言って、」
「あとこの隊の隊長は俺だからな。」
ぐっと口を噤んで今にも泣きそうな顔をする。気力だけで立ち上がったようなものだったのか、ズルズルと座り込んでしまった。目線を合わせるようにしゃがみこむ。
「ここまでやれば十分だ。後は俺に任せろ。」
背中を支えてやりながらそう言うと悔しそうに涙を流して胸に凭れかかってきた。負けず嫌いな捻くれ者が俺に涙を見せるなんて。相当悔しかったらしい。お前にはまだ負けてやらないに決まってんだろ。自分の胸に頭を埋めて静かに泣く其奴を落ち着かせるように背中を摩った。