イノが応急処置をしている間に眠ってしまった其奴をおぶって里へと向かう。すーすーと耳元で寝息が聞こえてきて緊張感も何もあったもんじゃない。
「シカマル、そういう子が好みだったのね。」
意外だわ、と隣を走るイノに言われた。
「あ?違ぇよ。腐れ縁ってかライバルってか、そう言う感じだ。面倒くせぇ。」
「ふーん?あんたがこうやって任務に出るなんて久しぶりよね?」
「…人手不足だからな。」
へーえ?と楽しそうに言われる。急に首に当たる彼女の長い髪が擽ったく感じた。里に着いて門の前で一応様子を窺うも異変は無さそうだった。背中で気持ち良さそうに眠る其奴を病院に連れて行ってから火影塔へ向かった。
「どうでした?」
気になって部屋に入るなり問い掛けた俺に笑顔を1つ送られた。
「大成功だね。何人かリーダー格生け捕りに出来たから事情伺ってるとこ。」
「そうでしたか。」
「そっちも無事だったみたいで。」
「はい。」
「今日はもういいからついててあげてよ。」
その言葉にイノと同じような誤解をしてるのだろうと察しがついて苦笑する。複雑な気持ちが表情に出ていたのか六代目が口を開いた。
「彼女、捕まる前に同伴してた忍全員に全速力で里を目指すよう伝えたらしいね。向こうの狙いは自分だから自分で何とかするからって。」
「…そうっすか。」
「残ろうとした隊長に紙切れ渡して、奈良シカマルに渡してください、渡してくれれば私も助かりますからって言ったって。」
助けに行った自分を見て驚いていた彼女を思い出す。まさか俺が助けに行くとは思っていなかっただろう。
「そんな過信されても困るんすけどね。」
「ま、結果としては正解だったけどね。」
くすくすと笑われる。
「お陰で木の葉を攻めるとどうなるか良い示しにもなったし、彼女自身も帰還できたしね。」
「戦術だけは完璧っすからね、あいつ。」
「いいライバル現れちゃったね?」
「まだ負けた事はないっすけどね。」
そりゃ頼もしい、と言ったかと思うと手で追い払うようにされた。一礼して部屋を後にした。その足で病室に向かう。大部屋に入れられてる所を見るとそこまで深刻な傷ではなかったらしい。まだ眠っている姿を椅子に座って眺める。鼻にかかった声を上げたかと思うとゆっくりと目が開いた。
「体調はどうだ。」
「…奈良?」
顔を歪めながら起き上がって焦点の定まらない目でぼーっと此方を見ている。
「無茶しすぎなんだよ。」
「ハハ、一応勝算はあったんだけどね。自分の運動不足さを加味するの忘れてた。」
至る所に包帯やらガーゼやらが見える。その俺の視線を追って、痛みはだいぶマシになりました、と言った。
「咄嗟に書いた暗号で将棋って。色気ねぇな。」
「失礼しましたね、奈良にだけ分かるものってそれくらいしか思いつかなかったの。急いでたし。」
ムスッとしてそう言われた。
「…俺が行くかもしれないって分かってたのか。」
問い掛けると困ったように眉を下げる。そりゃあ、と言った後少し言葉を区切ってから口を開いた。
「警備に最大限人員割いて、それでももし助けに来てくれるなら頭数は限られるから。頭の切れる人が隊長に任命されるかなって。だから来ないでって書いたつもりだったんだけどね。」
「あの状況で言われたら逆に行かなきゃって思うだろ。」
裏の裏を読めって奴?忍の鑑だね、と言われる。いつもの憎たらしい返しに安心する日が来るなんて思ってもいなかった。
「警備はお前の案で上手くいったらしい。大成功だってよ。」
「…私の案じゃないでしょ。私は元の配置の方がいいと思ったもん。」
俯いて両手を見つめている。素直に受け取ればいいのに。負けず嫌いなのはそうそう直らないらしい。
「狙われてんの、知ってたのか。」
「なんとなく。」
「それで将棋の暗号使うの決めてたって訳か。」
なんでもお見通しですか、と自嘲するように笑う。弱々しい笑顔に、いつか一人で呆気なく消えてしまうんじゃないかと急に不安になった。
「相談しろよ。何でも一人でやろうとすんな。」
茶化す訳でもなく言った言葉に驚いたようで珍しく言葉を失っている。自分のように同期がいないと言っていたから慣れていないのかもしれない。少しして考えが纏まったのか口を開いた。
「相談、って、なんかそういう概念あんまりなかったから、ビックリした。」
「個人プレーヤーすぎるだろ。」
「チームワークもしてるよ。ただ自分で出来ることは自分でやろうってだけで。そしたら案外何でも乗り越えられちゃってただけ。」
それは自分もよく分かるので苦笑する。
「別に困るまで行かなくても疑問に思ったこと他人と共有すればいいだろ。口にしてみたらすんなり解決策思い浮かぶこともあるし。」
「そう、かな。」
「俺と話すの好きなんだろ?」
からかってやろうと思ってそう言うとかぁっと一瞬で彼女の顔が真っ赤になった。その反応は新鮮で呆気に取られる。
「あ、相変わらず、底意地悪いよね、」
「なんだよ、善意で言ってやってんのによ。」
その顔は善意のぜの字も含まれてない、と真っ赤な顔で睨まれる。その反応はもう彼女の気持ちを隠し切れてない事に本人は気付いてるんだろうか。なんだ意外と素直なとこもあんじゃねーか。自然と頬が緩んだ。