「苗字さん、可愛くなったよね。」
火影室で雑用をしていると話しかけられた。他にも話題なんて豊富にあるだろうによりによって何故アイツの話なんだと思ってしまう。
「そうっすか?」
「なんかとっつき易くなったらしくて人気みたいじゃない。」
戦術班とその周り野郎が多いから余計だね、とコーヒーを飲みながら言われる。面白くないが此処で反応してしまったらこの人の思うツボだ。
「へぇ。じゃあ漸くチームワーク出来るようになったんすね。」
「誰かの影響?」
「、手止まってますよ。」
釣れないね、と言ってその人は気にした様子もなく書類に目を戻した。息抜きがてら部下をいじるのはやめて頂きたい。
「あ、これサスケに渡しといて。」
「了解っす。」
書類の束を受け取って火影室を後にした。一応書類の内容を確認しながら暗部の待機所へ向かう。いつもは殺伐としているのに珍しく話し声が聞こえてきた。中に入ると一人だけ面をしてない場違いなアイツと同期が楽しそうに談笑している。「なんかとっつき易くなったらしくて人気みたいじゃない。」先程言われた言葉がジャブのようにきいてくる。割って入って目当ての人物に書類を渡した。
「カカシ先生から。」
「あぁ、悪いな。」
其奴はペラペラと紙をめくったかと思うと傍に置いた。まだ居たのか、と言いたげに見てきて苛立ちが募る。それには気付かなかったフリをして隣の奴を見た。
「お前何してんだよ。」
「情報収集。やっぱり実戦する人から話聞こうと思って。」
「立派だな。」
憎まれ口を叩きあうのが定常化しすぎて気にしていないのか、文字通り受け取ったのか、再びサスケと話し始めた。苗字を買ってる暗部総隊長ってこいつだったっけ。サスケと其奴を見つめる。戦術を記録しているのか巻物を広げそこに何やら書き込んでいる。サスケが、違ぇよ、と言って筆を取り上げて代わりに書き込む。んな近い距離で座らなくたっていいだろうが。ふつふつと何かが湧き上がるのを感じた。
「奈良?」
突っ立ったままの俺を不思議そうに見上げてきた。此方に意識が向いている此奴の手が巻物に乗っていて邪魔だったのか、サスケが意に介した様子もなく手で退かす。
「ちょっと来い。」
気付けば苗字の腕を掴んで待機所の外へ連れ出していた。キョトンとして見てくるのが今は火に油を注ぐ。自然と力の入った手で向かい合うよう促した。
「自分で出来ることは自分でやるんじゃなかったのかよ。」
「え、相談しろ、って奈良が言ったんでしょ?」
どうしたの、疲れてるの、と心配そうに見られる。その顔から悪意は微塵もないと分かる。言ったけどあの流れだと俺に相談しろって取るだろ普通。余計に苛立ちが募った。
「サスケ、たまにしか居ないのに押しかけても快く協力してくれてんの。失礼だから戻るよ?」
「快くって簡単に絆されすぎだろ。」
「…何が?」
こういう方面は意外に疎いらしく、いつものようにスムーズに会話が進まない。それが物凄く歯痒かった。
「あーもう面倒くせぇ。分かれよ!勝手にしろ!」
睨むようにして見た彼女が傷付いた顔をしている。初めて見た表情に動揺して背中を向けた。むしゃくしゃしたまま火影室へと戻る。「とっつき易くなったらしくて人気みたいじゃない。」六代目に言われた言葉がグルグルと回っていた。嫉妬だ。醜い感情に任せて八つ当たりをしてしまった。あの様子だと他意はないのは分かる。素直になれと言ったのに対して善処すると答えたその言葉通り変わろうとしているのだろう。それを俺が面白くないからと一方的に責めるのは違う。分かっているのに抑えられなかった。お互い好きだと気持ちを確かめ合いはしたが、甘い関係には至っておらず会っても今まで通り接してくる。昼食の時にどちらかが待ち伏せをする回数が気持ち増えたくらいだ。その事を気にしているのが自分だけだというのもまた苛立ちを助長する。
「でもさっきのは無かったよな。」
溜め息を吐く。昼休みに謝りに行くか。そう思い直した時だった。
「シカマル、今日の昼食会なんだけど。」
火影室でそう言われて、しまった、と忘れていた予定を思い出した。所謂里の上層部で昼食を囲み近況報告をすると言う、飯を食っても食った気がしないイベントがあるのをすっかり忘れていた。仕方ない。苗字の所には他に時間を見つけて行くか。とりあえず目の前の事に集中する事にした。
しかし運命の悪戯なのか何なのか。こんな日に限ってやたらと忙しい。ひと息ついたと思えばとっくに夜だった。戦術班の部屋を覗いて見たけど当たり前だが誰一人残っていなかった。明日こそちゃんと謝ろう。その日は諦めて帰宅した。
「任務?」
「あぁ。何でも実戦から随分離れてるから感覚を取り戻したいとか。」
昼前、確実に会えるように戦術班を訪れたのに肝心のアイツは任務に出ていると言う。一週間の任務だと告げられた。サスケに戦術の相談する前に久しぶりに任務に就く事、ひと言俺に話せよ。また苛立ってしまう。
「なーに、怖い顔して。名前さんに振られたの?」
久しぶりに会った幼馴染に揶揄されて、あながち遠くない言葉に肩を落とした。やだ、何よ、マジ?、と心配される。
「何でもねーよ。」
「それならいいけど。あ、名前さん、任務行ってるのよね。それで心配なの?」
「まぁ、そんなとこだな。」
「大丈夫よ。今回は暗部と一緒なんだし。」
「は?」
暗部と言われて真っ先に同期の顔が浮かんだ。まさかサスケと一週間任務に行ってんのか。
「うん、昨日たまたま会った時にそう言ってたから。」
「へぇ。」
「なんかあったなら拗れちゃう前に話し合った方がいいわよ。」
短く返事をして別れた。もうとっくに拗れる軌道に乗っちまってんだよ。幼馴染のアドバイスに悪態をついた。