08

議論を再開しても彼女の様子はおかしくて、六代目に少し時間をくれと頼んだ。何も聞かずに了承してくれる。とはいえ一刻を争う状況だ。ぐずぐずしてなどいられない。

「苗字、話あんだけど。」
「何?」

何と言いながら止まる気配はない。どこに向かっているのか歩き続ける彼女に話しかける。

「どうしたんだよ。何かあったのか?」

戦術班の所に戻るのかと思っていたけどそういう訳ではないらしい。つかつかと歩き続けている。

「気にしないで。外交の話、専門外だからってちゃんと考えてなかったのは私の落ち度だし、異論はないから。」

じゃ、と手を掛けたのは暗部の待機所で慌ててドアを開くのを止めた。

「そんなんで納得すると思ってんのかよ!」

声を荒げてしまった所為かドアに手を掛けたまま動かない。悪い、と謝るも何も反応がなかった。目線を上げて彼女の方を見て動揺した。次から次へと涙が流れ出ている。タイミングよく内側からドアが開いて呆れたような声が掛かった。

「てめぇら待機所の前で何やってんだよ。」

聞き覚えのある声は同期のものだ。其方を見ると微動だにせず涙を流す彼女を見て溜息を吐いた。

「ここは託児所じゃねーんだよ。」

ポンと苗字の頭に手を乗せる。それで我に帰ったようにサスケを見上げて思い出したように涙を拭った。

「名前、これから任務だからまたにしてくれ。」
「うん、いつもごめん。」

慣れたようにぐしゃぐしゃと頭を撫でて、じゃあな、と立ち去って行った。残されて二人気まずさを感じる。二週間前に此処で彼女に八つ当たりした事を思い出した。話がしたいと告げ屋上に向かう。会話もなく歩いた。

「サスケに戦術の話聞いてんの、咎めたりして悪かった。」
「、え?」

驚いたように見てくる。

「俺には何も相談してこねーのに、サスケには頼ってんのかって思ったら、ちょっと、ムカついた。」

俺が不機嫌だった原因が分かったのかほんのり頬が赤らんでいる。

「だいたいアイツ距離近すぎんだろ。座るときも驚く程近ぇし、すぐ触るし、硬派だと思ってたけど違ったらしいな。」
「サスケ目悪いから。」
「サスケの事は名前で呼ぶのに俺は苗字なのかよ。」

目の前の顔が更に赤らんでいく。自分も顔が熱い。

「まぁ、そういう事でイラついて、八つ当たりしちまって、悪かった。」
「…奈良、妬いてたの?」
「悪いかよ。」

両手で口元を覆って目を見開いている。そんな驚かれると余計に恥ずかしくなる。

「じゃあ、分かれよ、って、私が話について行けてないからじゃなくて、」
「鈍いからに決まってんだろ。」

食い気味にそう言うとへなへなと座り込んでしまった。目線を合わせるように自分もしゃがむ。今にも溢れそうな程目に涙を溜めているのがわかって決まり悪くて下を向いた。

「私、奈良は私と話してて話通じなくてイライラしてたのかと思って。いつも何だかんだ奈良の方が正しいし、本当は私と話すときも無理してたのかと思った。」

何言ってんだと顔を上げると、彼女の目に溜まっていた涙がついに溢れた。そっと指で拭ってやる。

「んな事気にしてたのか。」
「気にするよ。一緒だと思ってたのに違ったんだって、」
「それであんな言いなりだったのか。」

また涙が溢れてくる。自分でゴシゴシと目元を擦るのを慌てて止める。

「目元腫れるぞ。」
「だって、奈良の、擽ったい。」

その言葉通り親指でなぞるたびに擽ったそうにする。素直だと随分可愛い。

「お前は想像と違う事するから、楽しみにしてる。」
「噛み付かれても?」
「筋通ってればな。」

どM?といつもの調子が出てきて苦笑する。

「だから俺の前では抑えんなよ。好きなように喋ればいいし、思ってる事は堂々と言えばいい。泣きたきゃ泣きゃあいいし、怒りたきゃ怒れ。」
「キスしたかったらしてもいいの?」

冗談なのかそう言われてドキッとした。返事の代わりにそっと唇を重ねる。衝動的に取った行動に今更恥ずかしくなって離れた。彼女の様子を窺うと目を伏せている。見た事ない表情にどきっとした。

「もっかい。」
「欲張りだな。」

口角が上がったまま口付ける。彼女の口角も上がった気がする。名残惜しい気持ちを抑えて離れると彼女は恥ずかしそうにはにかんだ。

「任務、勿論観察の為に行ったんだけど、本当は顔合わせるの怖くて行くの決めた。ごめん。」
「知ってる。」
「…知ってたか。」

まだ涙の乾き切っていない目元で笑う。ごめん、ともう一度小さく謝られた。

「周りと上手くやろうと頑張ってんだろ?」
「私なりに。」
「とっつき易くなって人気なんだってな。」
「そうなの?」
「そういうの、本当疎いよな。」

失礼な、とペシリと肩を叩かれる。本当に無自覚らしい。潔く笑った彼女は一度空を眺めて柔らかく頬を緩ませた。

「シカクさん正解だったな。シカマルは独占欲強いから気を付けろよって。」
「…悪かったな。」
「でも、それでもいいって言っちゃったけど。」
「、不意打ち過ぎんだろ。」

抱き寄せると耳元で嬉しそうに笑うのが聞こえてくる。親父とそんな話をした事があったとは知らなかった。そんな前から好きで居てくれたことも知らなかった。好きな奴に対する態度がアレだったのか、と驚きはするけど自分も自分なのでしょうがない。俺たちは俺たちの、軽口を叩きあって競い合う関係でいればいいと思った。