03

夜遊びの時によく連む男が、この間出会った女の子たちにまた誘われた、と連絡してきた。どうやら最近オープンした話題の新コンセプトの店に行くらしい。これも彼女の「友達」の力なのだろうか、と二つ返事で快諾した。

「よ。ラッキーだよな。ここなかなか入れないって噂なのに。」
「そうなんだ。誰か顔でも聞くんじゃない?」
「らしいな。さゆりちゃんの友達がチケット持ってたって。」

さゆりちゃん、とは大層お気に入りだった女のことだろうか。付き合うのか付き合わないのか、前回二人で消えた姿を思い出す。

「あ、ゲンマ!カカシさん!こっちです。」

長蛇の列を尻目に、入り口で手を振る女の方へと向かう。

「ごめんね、待った?」
「ううん。そろそろ来る頃かな、と思ってちょうど見に来たの。」

連れが女の腰に手を回しながら顔を寄せて話しかけると、嬉しそうに*を赤らめてそれに答えている。案内された先はやはりVIP席で、会場のど真ん中に置かれた水槽がよく見える位置だった。ソファに座っているメンバーを見て、迷わず一番端に座っていた彼女の隣に腰掛ける。

「また会ったね。」
「覚えてたんですね。」

俺から距離を取るように足を組んだ。彼女の色白の太ももが見える。この間よりも人数が少なく、まだ全員揃っていないという言葉を遠くで聞いた。

「この前の、彼氏?」
「どの前ですか?」

薄っすらと笑みを携えてそう言うと、飲み物取ってくる、とその場にいた女の子に声を掛け立ち上がった。俺の前を遠慮もせず通って薄暗い通路と消えて行く。

「カカシさん、名前狙いですか?」

そう言ってゲンマの近くにいた女がこちらを向く。

「さっきの名前ちゃんって言うんだ?クールな感じだね。」

こういう時は助け合い、とばかりにゲンマが口を挟む。促され女が続けた。

「いつも途中で消えてくから別に身持ち固いって訳じゃないと思うんですけど、此処に呼ばれた人とはあまり話さないんですよね。私たちに気遣ってるのかな?」

事実なのかもしれないけど、さらっと彼女を落とす発言をするところが女って怖いなと思う。興味なさそうに相槌を打った俺に、戦略が効いたと勘違いしたのか、ケータイで誰かに電話を掛け始めた。

「飲み物取ってくる。」
「おう。」

連れに声を掛け、彼女の後を追う。注文した飲み物を持ってあの時のように遠くを眺めていた。自分の飲み物を頼んで隣に並ぶ。

「避けられてる?俺。」
「こんな格好いい俺を避けるなんて、って?」
「そんな自信満々な奴に見えるんだ?」
「まぁ、見た目の良い人はそうなったってしょうがないですよ。」

自信ある男の人ってモテるって言いますしね、となぜかフォローされる。

「友達の所、戻らなくて良いの?」
「私がふらっと消えるの、慣れてると思うんで。それにまだ全員揃ってないから誰も気にしないと思いますよ。」

綺麗な作り笑顔を向けられる。

「俺、普段自分から女の子に声かけることないんだけど。」
「モテ自慢ですか?」
「なんか、君は気になるんだよね。名前ちゃん。」

自分の名前を呼ばれた条件反射か、こちらを驚いたように見つめてくる。しかし次の瞬間には前を向き直って微笑んだ。

「ほら。普段自分から女の子に声なんて掛けないモテる格好いい俺が声掛けてやってんのに、って。」
「はぁ、どうやったら振り向いてくれるのかね。」
「振り向いたらどうなるんですか?」
「え?」

驚いて横を見ると、彼女は無駄にデカい水槽を見ながらグラスを傾けていた。想定外の質問がきて、言葉が遅れる。

「深い深い愛で包むよ。」
「ふふ。それは意外だった。」

何が面白かったのか声をあげて笑ってこちらを見上げてくる。その目が伏し目がちに俺の唇を見て、だんだん顔が近づいてくるのが見える。俺の首に腕を回し、顔を上げて迫ってくる彼女に届くよう此方も顔を下げる。柔らかい唇の感覚に思わず彼女の腰に手を回す。グラスを持ったままゆるりと俺の首元にしがみついてきた。彼女の唇を何度も何度も追いかける。

「ん。」

胸にとん、と手を置かれて静止を促される。こちらを見上げてくる目と目が合って、その顔が照れ臭そうに微笑んだ。耳元に顔を寄せ、愛分かった?、と問うと擽ったそうな笑い声が聞こえてきた。

「席、戻ります?」
「そうだね。」

何気なく腰に手を当てると背中を抓られる。

「痛っ。」

驚いて手を外すと満足したように微笑んで歩き出した。隣に並んでもと来た道を戻る。ソファに戻ると簡単なつまみ程度の料理が届いていた。どうやらショーがもうすぐで始まるらしく、すでに準備万端とばかりに座る他の奴らに早く座れと急かされた。急かされたから、と言い訳するように彼女の隣を陣取る。派手な光が広がり、大音量の音楽が流れ、ショーが始まった。ショーは扇情的な官能的なもので、でも見ていていやらしさはない。新コンセプトと名打つのに打って付けのエンターテイメントだと思った。チラリと横を盗み見ると皆ショーに釘付けになっているようで、誰も目線がずれない。その状況に乗じて足を組む彼女の細い腰に手を回す。驚いたのか肩を揺らした彼女が軽く手を叩いてくる。叩かれた手に力を入れてこちらに引き寄せた。俺とは反対方向に投げ出すように足を組んでいたから力が入らなかったのだろう。いとも簡単に引き寄せられる。コツンと腰同士が当たってこちらを見上げてくる。言葉を発するより先に口付けると、力一杯胸を押してくる。それでも腰に回した手に力を入れて、後頭部をぐっと掴むと力が抜けていく。繋がった唇から彼女の吐息が伝わって強引に舌をねじ込んだ。意外にも抵抗はされず、先ほど胸を突き返していた両手が俺の*を包む。不安定な体勢になったのか、彼女の組んでいた足が崩れたのを見て自分の膝に両足を乗せてやる。*に置かれていた手が首元まで下がって、トントンと制止を要求してくる。

「盛り上がってるねー。」

楽しそうな声を掛けられてそちらを見るとショーに夢中だと思っていた人達がこちらを見ていて、彼女の顔が真っ赤になっていく。

「や、違、」

そう言って向こうを振り返った彼女のスカートの裾に手を差し込むと、慌てて上から押さえ込まれた。

「じゃあ俺たちも。」

連れの声が聞こえて来る。あぶれた女の子達が気まずそうにコの字型に並べられていたソファの向かい側へ移動し、背を向けるようにしてショーを見始める。

「何して、」

不安定な体制だった彼女を押し倒すと、本気で抵抗し始める。

「やだ?」
「やですよ。」

口を塞ぐようにキスをすると抵抗が減った。手を動かしてスカートの中を堂々と弄る。柔らかくなぞられたのが擽ったかったのか小さく吐息が漏れる。ソファの反対側から連れが女の子を押し倒していて、近くで目が合って変な感じがする。そちらはもう盛り上がっているようで、ワンピースがだいぶ上まで捲り上げられている。大胆に晒された肌がショーの紫色の光で照らされる。その様子にふと自分がしていることが冷静に見えてきた。捲れ上がっていたスカートを直してやって彼女を抱き起こす。膝の上に抱きかかえると首に腕を回された状態になっていた。

「あの、」
「やなんでしょ?辞めてあげる。」

意外だったのか、何も言葉を発さずそっと首元に擦り寄ってきた。野良猫を手懐けたみたいで少しこそばゆい。

「意外と紳士ですね。」
「意外どころか紳士ど真ん中でしょ。」
「ふふ、ど真ん中って。」

笑った彼女の息が首と耳にかかる。覗くように顔を見るとまだ緩んだままの顔を無防備に見せている。黙らせるようにキスをして、彼女の長いふわふわした髪を押し退けて首元に顔を埋める。頸まで辿ってキツく吸い付く。チクっとした痛みが伝わったのか、何、と肩に手を置かれる。何もなかったように耳朶を啄ばむと、歯の隙間から漏れたように吐息が聞こえる。

「本当は嫌じゃなかった?」
「っはあ」

耳に息がかかる距離で問いかけると答えの代わりに甘い声が聞こえた。

「今のは、違うの、嫌。」
「ふーん?」

彼女の体から少し距離を取ると顔を真っ赤にして俯いている。慣れているんだか慣れていないんだか。彼女に知られず付けた所有印に小さく優越感を覚える。

「場所、変える?」

耳元に顔を寄せ彼女にだけ聞こえるように言うと、うん、と小さく返される。お取り込み中の連れとショーを楽しんでいる女の子達に気付かれないよう彼女の手を引いてそっと外へ出た。タクシーで自宅近くまで乗り付け、彼女の腰に手を置き歩みを促す。二人きりのエレベーターで真正面から抱きしめると大人しく俺に抱かれていた。お互いに言葉は発さない。部屋に着いてシャワーを浴びたいという彼女を宥めてそのまま服を脱がせる。立ったまま確認したソコの様子に*が緩む。

「こうなってるから、シャワー浴びたかった?」
「っ、言わないで。」

照れ隠しに首元に抱きついてきた身体を抱きしめて、ベッドに寝かせる。彼女から漏れる声は甘くて聞いてるだけで溶けてしまいそうになる。思ったよりも余裕がなくなっていたようで、今すぐにと彼女を求めてしまう自分がいた。

「名前ちゃん、好きだよ。」

呟いて1つになる。こんな風に押し倒しておいて、気持ちを伝えてから身体を重ねるという順番を守ろうとした自分が可笑しい。彼女からは言葉は無い。気持ち良さそうに声を上げて、俺に縋るように手を伸ばしてくる。それだけで満足してしまえる安易な自分がいた。色白な肌に吸い付いて花を咲かせる。いくつも、いくつも。こういう行為が当分は自分としか出来ないように際どい所へ。近寄ってきた男が萎縮するように隠せそうで隠せない所へ。胸元、太ももの付け根、お腹、肩、背中、首元、額。自分で言った深い深い愛という言葉を証明するかのように。

朝目覚めたら彼女は居なくなっていた。自分も今まで幾度となく女の子にしてきた行為だけど、こんなに胸が引き裂かれるように切なくなるものだと、初めて知った。郵便受けに鍵が入っていて、律儀に鍵を閉めて行ってくれたことに心が軽くなる。また、会える日は、来るのだろうか。連絡先も、住んでる場所も、普段よく行く場所も知らない。偶然会うなんて奇跡が起こらないのは明白だった。