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最近家にやってきたお兄ちゃんは、ちょっと不思議な人だ。


お兄ちゃんがやってきたあの日は。久しぶりに家族みんなでお出かけできる日で、すごく楽しみにしていた。父上と母上と一緒にピクニックに行くのは久しぶりで、どんな美味しいお弁当を食べるのか、どんな遊びをしようか、ずっとワクワクしていた。

でも、そんな楽しい時間は突然奪われた。

突然、空から誰かが降ってきたのだ。大きな影が私たちの上に覆いかぶさり、何かが地面を揺らすような音がした。驚いて顔を上げると、恐ろしい顔をした人が降り立ち、何やら降ってきたお兄ちゃんに襲いかかろうとしていた。その瞬間、父上はすぐに戦う構えを見せて、母上と私、そして怪我をしたお兄ちゃんを守ろうとした。

ピクニックはあっという間に台無しになり、楽しいはずだった一日が、恐ろしい戦いの場に変わってしまった。父上は強いけれど、どうしてこんなことが起こったのか、私はただ残念で、そしてちょっと悲しくなった。


治療を行うためにとんぼ返りし、ちょっと怒って不機嫌になってしまったが仕方がないだろう。楽しみにしていたんだから。


その後、空から降ってきたお兄ちゃんが、治療を受けながら父上や母上、そして私に礼を言ってきた。優しい笑みを浮かべていたけれど、目の奥にはどこか寂しそうな、喪失感を感じさせるようなものがあった。その表情が不思議で、私はじっとお兄ちゃんを見つめてしまう。なんでそんなにも悲しそうなんだろう?

父上はお兄ちゃんの様子を見て、「心配だ」と言っていた。その言葉に、母上も何か気にかけているようだった。お兄ちゃんはあんなに優しそうな顔をしているのに、どうしてそんなに悲しそうなのだろう? それが私には不安で、何か心に引っかかるような気がした。幼いながらに何かを感じ取っていて触れてしまえばすぐにお兄ちゃんがいなくなってしまうような、そんな緊張感があることに気が付いていたのだ。

でも、私はまだ子どもだから、どうしてお兄ちゃんがそんな風に見えるのか、ちゃんとはわからなかった。ただ、ただ、みんなが元気で、幸せでいてほしいと思っただけだった。最初はちょっとやっぱり怒りはしたけど、お兄ちゃんと一緒にいる時間は楽しかった。一緒に遊んでくれるし、カニをとったりしてくれる。わからないことがあったら教えてくれるし、かっこいい、すごく頭もよくて何でも知ってる。すごい人だ。


お兄ちゃんが来てしばらくしたある日、母上が私に優しく言った。

「彼はこのままだとどこかに消えて行ってしまいそうだわ。利吉。しっかりと手を握って離さないであげてね」

母上の言葉に、私は少し驚いたけれど、心の中でお兄ちゃんのことを思い浮かべた。あんなに優しいお兄ちゃんが、そんな風に感じられるなんて不思議だ。けれど、母上の言う通り、私はお兄ちゃんの手をしっかりと握り、離さないようにしようと思った。大好きだから。どこかに行ってほしくないから。


その日、私たちは一緒に川にカニを取りに行った。キャッチ手裏剣とかいろんなことをしてくれるお兄ちゃんと一緒に川に遊びに来れてとてもうれしい。カニは残念ながらとれなくて私がしょんぼりすると慰めてくれた。また明日と約束してくれる言葉がうれしい。明日は何をしようかな。楽しいことがいっぱいでまだまだお兄ちゃんと過ごせると思うと嬉しくてしょうがない。

お兄ちゃんは川の岸辺で何かを探している様子だった。私は歩きながら、何を探しているのか気になった。

「何を探してるの?」

私が興味津々に尋ねると、お兄ちゃんは静かに答えた。






「遺体」


その言葉に、私はぞっとした。どうしてそんなことを言うんだろう、怖い。お兄ちゃんの顔はあまりにも穏やかで、あの笑顔のままで、何も違和感なく言ったから、私はただただ驚いてしまった。しかし、もう一度その顔を見た時、お兄ちゃんはにっこりと笑っていた。

「うそうそ、ごめん。冗談だよ」

その笑顔はいつも通りの優しい笑顔で、何も恐ろしいことなんてなかったように見えた。

「気のせいだったのかもしれない」と私は自分に言い聞かせ、胸の中でその不安を追い払った。きっと、何も怖いことなんてないんだ。お兄ちゃんはただの優しいお兄ちゃんだから。

でも、心のどこかで、あの言葉が頭から離れなかった。

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