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「六年生って、何人くらいいるの?」

何気なく尋ねると、ユキたちは顔を見合わせて教えてくれた。

「今は……六人くらいかな!」

「忍たまに限らずだけど学年が上がるたびに残る人は減るの。最初はもっといけれど、途中で辞めたり、家業を継いだりいろいろあるんだ」

「だから、今残っている六年生の先輩たちは、みんなプロに近い腕前なんだよ」

それぞれが答えてくれる。彼女たちの口調には、先輩たちへの尊敬が滲んでいた。学校という空間で忍者になるために修行を重ねる数年間……そう考えると、並大抵の努力では務まらない世界なのだろう。日々鍛錬し、危険と隣り合わせの世界で生き抜くための技術を磨く。彼らはただの生徒ではなく、すでに一人前の忍者になりつつあるのだ。

そんな場所に、平和ボケしている自分が混ざって大丈夫なのだろうか……


ふと不安がよぎる。私は忍者でもないし、戦う術も持っていない。ただ、ここに身を寄せることを許されたにすぎない。彼らのように努力を積み重ねてきた者たちと、自分は違いすぎるのではないか——。

「……?」

私の様子に気づいたのか、おシゲが不思議そうにこちらを覗き込んでくる。

「どうしたんでしゅか?」

「……あ、いえ、ただ……」

「先輩たちのこと、もっと詳しく教えましょうか?」

誤魔化すように微笑むと、彼女たちは少し首をかしげつつも、明るい声で続けた。


「ええと、立花先輩はさっき会ったから。それから——」

そう言いながら、六年生のメンバーについて話してくれる。誰がどんな性格で、どんな得意分野を持っているのか。生き生きと語る彼女たちの様子を見ていると、少しだけ気が紛れた。不安は拭えないが、今はこの学園のことを知ることが大切なのだと、改めて思い直す。



そんなことを考えていると、不意に声がかかった。









「——やあ、様子を見に来たよ」

振り向くと、土井だった。彼は穏やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。その表情は昨晩見せたあの暗く沈んだものとはまるで違い、まるで夢でも見ていたかのように思わせられる。

「少し彼女と話したいことがあるんだ。案内の続きをお願いしていたけど、引き継いでもいいかな?」

彼がユキたちにそう告げると、三人はすぐに「わかりましたー!」と元気よく返事をし、すぐに去っていった。気づけば土井と二人きりになってしまい、なんだか気まずい。けれど、彼が何を話すのかも気になり、私は黙ってついていくことにした。


「学園の様子はどうだった?」

親しげな声で話しかけてくる彼の横顔は柔らかく、どこか安心感を与えるものだった。昨晩、彼の顔に浮かんでいたあの翳りはどこにもない。

本当に、あの暗い表情は夢だったのかもしれない——

そんな錯覚すら覚えながら、私は彼の言葉に答えようと口を開いた。
 

「まだ少し緊張しているけれど……いい人たちばかりだと思う」

私がそう伝えると、土井は優しく微笑んで、「これから少しずつ慣れていけばいいさ」と穏やかに言いながら、そっと私の手を握った。不意のことに思わず指先がこわばる。けれど、彼の手は温かく、しっかりとした感触があった。

少し不思議な感覚だった。
私はじっと、私の手を包み込む彼の手を見つめる。そのまま顔を上げると、彼もまたこちらを見ていた。
微笑んでいる——けれど、その瞳はどこか熱を帯びているように見える。


「今日、案内してもらった様子は把握しているよ」

土井の声が落ち着いた調子で響く。

「困ったことがあれば、何でも言ってくれ。私が力になるから」

言葉の端々には優しさがにじんでいる。けれど、それだけではない。まるで——見張られているような感覚だ。監視というにはあまりにも柔らかく、けれど逃れられないような、そんな不思議な窮屈さを覚える。首に縄を括り付けられているような……

私は、そっと自分の手を引いたが、放してくれる気はないようだった。



「教え子に紹介したいんだ」

土井にそう言われ、私は彼に連れられていく。夕暮れの光が学園の中庭を柔らかく染める。赤や橙の空を背に、浅黄色の忍び装束をまとった少年たちが元気に遊んでいた。

10歳前後の子供たちが、木の棒を刀に見立てて打ち合ったり、地面に何かを書いて遊んだり、思い思いに過ごしている。その姿はどこか無邪気で、忍者の修行をする学園という厳しい環境の中でも、子供らしさを失わずにいるのだと感じさせた。

「おーい、お前たち!」

土井が少し大きな声で呼びかけると、遊んでいた子供たちが一斉に顔を上げた。

 

「土井先生!」

ぱっと表情が明るくなり、子供たちは一斉に駆け寄っていく。その様子は、まるでひまわりが太陽に向かって咲くような、雛が親鳥にかけていくような様子だ。どうやら彼らは土井の教え子らしい。慕われていることがよく分かる。
集まってきた少年たちは10人ほど。彼らの視線が、私に向けられる。

見慣れない顔を前に、興味深げに私を見つめる子供たち。そのうちの二人が、突然「あっ!」と声を上げた。


「お姉さん!」

そう叫ぶと、二人は弾かれたように駆け寄ってきた。近づいてきた彼らを見て、私も思い出す。

「昨日の……」

私の言葉に、二人は大きく頷いた。

「あの時はありがとうございました!」

「本当に助かりました!ナメクジさんも助けてくださってありがとうございます!」

目をキラキラと輝かせ、満面の笑みを浮かべながら、少年たちは元気いっぱいにお礼を述べる。盗賊に襲われていたあの子供たち。あの時は怯えた様子だったのに、今こうして元気な姿で再会できたことが、どこか嬉しかった。

「お名前はなんていうんですかー?」

「お礼をさせてください!」

彼らはすっかり懐いている様子で、矢継ぎ早に言葉を投げかけてくる。その無邪気さに、思わず口元が緩んだ。ぼくたちはーと二人は声を合わせる。


「しんべヱと!」
「喜三太です!」


二人は元気いっぱいに名乗る。私も同じように名前を名乗ればにこにことしてくれた。土井はそんな彼らを優しく見守っているようだ。子供たちの笑顔に包まれた私は、どこか温かい気持ちになっていた。

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