『んー、気持ち良いねえー』
「あの、名前さん、これは一体…」
『たまには良いでしょー?』
「ええ、まあ…」
『あはは、なんかデートみたいだね』
「え、」
久部くんと共に足湯に浸かる。殺伐とした仕事ばかりしているから、こんな癒しは久々だった。おっと、忘れないように、とミコトさんから預かったキットの中からカップを取り出し温泉のお湯を拝借する。
『有鹿温泉の湯は世界でも有数。海水の2倍の濃度があるの』
「遺体の髪についてた、塩?」
『ミコトさんが鑑識からの成分表送ってもらったみたいで、預かってきた。海水よりも、ここの温泉の方が水質比率が近い』
成分表を確認してる久部くんに、鞄から有鹿町のマップを見せる。ここは、胃の内容物であったグリコーゲン値の高い鹿肉があるのだ。足湯を後にして、2人で道の駅や販売所を回る。花ちゃんの胃の内容物と一致する食材が全てここにあれば、ビンゴだ。
「名前さん!ありました!鹿肉のカレー風味おにぎり!」
そういった彼にすぐさま近寄る。カレー風味おにぎりの横には、ポテサラサンド。全てが胃の内容物と一致していた。
『さすが久部刑事!!良くやった!!』
「わあ、ちょ、名前さん、!」
何件も回ってやっと見つけたから、あまりの嬉しさから久部くんをハグした。ん?でも、ちょっと待てよ?急に浮かんだ疑問に身体をパッと離してポテサラサンドを手に取る。
『これ、ちょっと多いよね?』
「この店じゃないってこと…」
『いやいや、』
おにぎりとポテサラサンドはどう考えても、倍の量があって。久部くんが店員さんに声をかけて、鹿肉のカレー風味おにぎりは、このお店特製のものだと判明した。そして、近くに冷凍倉庫もあるらしい。
『いってみようか』
「そうですね」
久部くんからヘルメットを受け取り、装着する。あ、やばい、金具に髪の毛が引っかかった。
「大丈夫っすか?」
『ん、これ取れるかな…』
「ちょっとじっとしてて下さいね」
金具に髪の毛が絡まってしまい取れそうもなく、髪を数本抜こうかと思ったけれど。久部くんが真剣な顔で金具から髪の毛を取ろうとしてくれる。あの、なんて言うか。ちょっと距離が近い。
「あ、取れました!」
『ああ、ありがとう』
「いえ、って、あ、」
彼も距離が近くなっていたことに気づいたのか、思っていたよりも至近距離で目があってしまい頬を赤らめる。誤魔化すように、ほら、早く行こう、と背中を押して、私たちは目的地へと急いだ。
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