#13


『いったあ…、』


痛む身体を無理矢理起こして、辺りを見回す。一体、何が起こったのだろう。大きな揺れから何か大変なことが起きたのは明白だ。バチンっと冷房が切れる音がして、不思議に思っていると


「名前さん、水!水!」
『え?』


今の車内の揺れは、トラックがどこかの池に入ったからだった。少しずつ車内に水が溢れてくるのがわかる。水?水、水なら…!


『キット!!鞄!!かばん!!』
「っ、はい!!」


慌てて鞄の中から、預かっていたキットを取り出し、入水してきた水で検査紙を濡らす。電話口からは心配しているであろう中堂さんの声が聞こえていた。


『硝酸性窒素20mg、亜硝酸性窒素1.5以上、えー、ph6.8、総アルカリ度20、総硬度120!これしかわかりません、トラックごと池に落とされました!ここがどこだか探してください、』
「それだけで場所がわかるか!」
『中堂さん、頭良いんでしょ?毎日私のこと馬鹿だのアホだの言ってるんですから!!』


中堂さんの舌打ちが聞こえる。今の私たちの救いは彼しかいない。どんどん車体が傾いていくのがわかるし、何より車内に漏れている水が増えてきている。まずい、このままじゃ本当に水没してしまう。


「名前さん、これ!」
『え、あ、大沼さと、』


久部くんが、このトラックの持ち主で犯人だと思われる人物の名前が書いてある紙を発見した。慌てて中堂さんに伝えるも、プツっと切れる音が。スマホの画面を見ると真っ暗で、電池が切れてしまったのを告げていた。ああ、これは本気でやばい状態だ。





「もう…ダメなんじゃないっすか、」
『酸素が少しでも残ってるうちは死なない。』
「完全に水没したら?!」
『息を止めて、泳がずじっとしてたら2、3分はもつ。意識を失うまでは1分。呼吸停止から3分は心臓が動いてる。その間に救出されれば見込みはある。』


出来るだけのことはしようと、水が溢れてくるところをガムテープで押さえたり、少しでも抵抗をする。


『…人間は、意外としぶとい。』



「名前さんは、なんで、そんなに詳しいんですか」
『え?』
「法医解剖医の記録係とはいえ、ご遺体のことや、今回の水質検査のこと、詳しすぎませんか?」



『それは、…私が元々、法医解剖医だったからだよ』


久部くんが目を見開いたのがわかった。彼には言っていなかった過去のこと。私の過去を詳しく知っているのはラボの中でも少数だ。昔のことを思い出して胸が痛くなる。だけど、私はその胸の痛みを背負って生きて行かなきゃ行けない人間なんだ。



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