#15


犯人は逮捕され、監禁されていた花ちゃんも無事に保護された。ミコトさんと久部くんが身元不明のミケちゃんを見送っているのと同時に、私も彼女の調書をまとめ《身元不明》と書かれている段ボールに遺留品を納めていた。ふう、っと一息ついて解剖室にいるであろう中堂さんを探す。


『ありがとうございました!』
「残念だったな。死に損なって」
『亜硝酸性窒素の濃度から割り当てたって聞きました、貯水池の場所』


あの時、電話に出たのが中堂さんでよかったかもしれない。いや、きっと中堂さんだったからこそ今私はこうやって生きていられるのだろう。


『焼肉行きませんか?お礼を兼ねて奢ります。』
「俺に感謝してるのか?」
『当然です』
「なら、話しかけるな。バカが」
『…また、バカって言ったー』


相変わらずの口の悪さに、苦笑いするしかない。仕方ない、と思いながらお先に失礼しようと挨拶をしかけた時、ああ、と中堂さんの低い声が響いた。


「そろそろ戻る気はないのか。」
『え?』
「法医解剖医。」
『…私は、もう、』
「お前は戻ってこれる。…俺が言うんだから間違いない」


私の顔一つ見ないで、言い捨てかのようにそのまま解剖室を出て行った中堂さんの後を見つめる。《俺が言うんだから間違いない》この言葉がどれだけ重いことなのか、私は知ってる。だから上手く返事ができずに息が詰まった。中堂さんは私と同じだ。違いがあるとすれば、私は怖くて逃げて中堂さんは逃げなかった、ということ。


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「あ、あれ…?」
『ん?どうしたの久部くん』
「あの、いや、えっとー…」


中堂さんには焼肉食べに行くのを断られたけど、ミコトさんと夕子さんは快諾してくれて、待ってくれていた久部くんの元へ向かう。私の両脇に立つミコトさんと夕子さんをチラチラ見てる久部くんに不思議そうな顔を浮かべていると、夕子さんからクククっと笑い声がした。



『なんですか、夕子さん』
「いやー?ねえ、ミコト?」
「うーん、あれか。うちらはお邪魔虫的な?」
「いや!違っ!違わないっすけど、!」
『お邪魔虫?なんで?っていうか、お腹空いたから早く行きましょー!』



腹ペコの私の頭の中は焼肉のことでいっぱい!美味しいものを食べれるのって本当に幸せだと思う。生きててよかった、と思える瞬間。水没しかけたから尚更。


「2人で…って言ってたはずなのに」
「まだまだだねえ、青年!」
「ま、頃合い見てウチらは退散するからさ。」


こんな会話を自分の後ろでされていることも知らず。焼肉屋までの道のりを確認しようとポケットに手を突っ込んでから、あ、と気づいた。携帯水没して無いんだった。


「名前さん、こっちです」
『ねえねえ、久部くん。その機種使いやすい?』
「え?ああ、まあ」
『私も同じのにしようかなー』


それじゃあ、お揃いですね。なんて可愛いこと言う彼に思わず笑みがこぼれた。



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