『ミコトさん、夕子さん!ミクロリサーチ社、みんな帰っちゃってますー!』
「うそー、うわ、ほんとだー…」
坂本さんを見送ってしばらくすると、ホルマリン液の再鑑定が出たと夕子さんから連絡が来た。ステンレスの主成分が出たもののケイ素の数値が異常に高くて、元素分析ができるミクロリサーチ社にお願いしようと思うと電話口で言われたので、2人より先にやってきたのだけれど。
『って、ミコトさん、時間…!』
「あっ!拘置所の面会時間過ぎてる…。桜小路さんの説得できない、」
「どうすんの?」
「とりあえず、元素分析!」
夕子さんがミクロリサーチ社の本社へ電話してくれることになり、とりあえず私とミコトさんはデスクへ戻ることになった。久部くんが所長室にいる中堂さんと、坂本さんの話をしている。
「あいつの不安なんか知るか」
「中堂さんが坂本さんと上手くやってさえいれば、坂本さんだって、こんな事する必要無かったんですよ」
「上手くやるってのはなんだ?ありがとうだの、素晴らしいだの、ほめそやして仕事しろってのか?」
『コミュニケーションです!』
「したくもない。自分の仕事のモチベーションくらい、自分で保て。話にならない」
「話をしなきゃ解決しませんよ」
中堂さんの言ってることは間違いではない。けど、彼はコミュニケーション不足すぎる。それにこのまま坂本さんの訴えを無視することもできないだろう。
「中堂さん、私たち協力しませんか?」
『え、どうしたんですか、ミコトさん』
「窮地に立たされた今こそ、協力。」
急に何か思いついたのか、中堂さんへ協力の提案をするミコトさんを見つめた。ミコトさんの言う《協力》の内容を聞いて、そういう手もあるのか、と私は感心してしまった。そうと決まれば、明日の公判までにやることがたくさんある。
『それじゃ、行ってきます!』
私は久部くんと一緒にミクロリサーチ社の本社へ向かう。きっと向かうまでの間に夕子さんが所長を連れてきて、本社へ連絡するようお願いしてるはずだ。
『あ、中堂さん!!ちゃんと文章考えてくださいよ!!』
「名前さん急いで!」
デスクを離れる前に中堂さんへ一言喝を入れる。中堂さんから深いため息とひと睨みを頂きましたけど。PCの前に座り、坂本さんへの書類を作るのが彼の今の仕事だった。
「名前さん、少し飛ばすんでしっかり掴まってて下さいね」
『りょーかい』
ぎゅっと久部くんの腰に腕を回す。初めはバイクの後ろに乗るのも少し怖かったけど、今じゃ慣れたものだ。私たちがミクロリサーチ社に着く頃には、所長からの話が通っていて無事、今日中に元素分析が行われた。
『無理言って、すみませんでした』
「ありがとうございました」
元素分析が無事に終わり、分析表を受け取る。新たな事実が見つかり、桜小路さんが犯人ではない、という結果に導くことができそうだ。あとは、明日。公判の証言が上手くいくかどうか。
『久部くん、近くの駅までで良いよ』
「え、ちゃんとラボまで行きますよ」
『いや、でも、ほら、バイトの時間、だいぶ過ぎちゃってるし…』
「いいですって。ほら、早くヘルメット被って下さい」
『ん、ありがとう』
分析表を大事に鞄へしまい、また久部くんの後ろへ乗る。明日も公判で朝早いから、なるべく早めに仕事を切り上げて、帰らなくては。とりあえず、この分析表があるから明日への不安は少し取り除かれた。
『ねえねえ、久部くん』
「なんですか?」
『中堂さんって、スーツ持ってると思う?』
「え?」
その答えは翌朝。めんどくさそうな顔をしてスーツではなく、喪服を着てきた中堂さんを見てわかることとなる。
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