#23



「これね、セルマランドゲランドのゲランドの塩!」
「な、何言ってるかわかんないっす」
『なんですか、その呪文みたいなの』
「お肉が優しく、おいしーくなるんです」


ミコトさんが実験で使ったお肉をラボのみんなで美味しく頂こう、っていうことで敷地内の庭でBBQをする。前から思ってたけど、所長は意外とグルメだ。私は野菜を切り、お肉を焼いてくれている久部くんに手渡す。


「被害者の弟、自供しました。」


電話を終えたミコトさんから事件の概要が話された。真犯人の弟は、被害者の姉のレシピを全部考えていて、印税を巡って口論になり殺害したと自供したようだ。


「それで、ぶすーっといったか」
「親族間の殺人は別れられないから起きる。」
「面倒くさい話だよねー」
『ほんと、うかうか結婚もできやしない』


でも冤罪を防げてよかった。所長のお疲れさまでした、の声に合わせて皆んなで缶ビールで乾杯をした。あー、美味しい!仕事頑張った後のビールほど最高のものはない!!


「でもさ、私はミコトに証言台に立ってもらいたかったなあ」
『夕子さんと同感ですー』
「しょうがないでしょー、女じゃ嫌だって言われたんだから」
「また変な記事書かれるよー?女法医学者の敗北!」
「勝手にいってろー。法医学とは何なのか、って話よ」
『本当!ほんと!』


今もなお女、と差別されたことに怒りを思い出してグビッと勢いよくビールを飲み込む。これ以上ミコトさんやラボの人が悪く書かれるのは納得がいかない!


「なんなのか…」
「法医学は法治国家に不可欠な学問。法医学がおざなりにされるってことは、無法の国になるってこと」
『無法の国、住みたい?』
「嫌です」
「だから今日のところは法医学の勝利で良しとするの!」


いつかあらゆる差別がなくなる世界になるよう。夢は大きく。あとの問題は坂本さんの訴訟だけとなったわけで。ミコトさん曰く、訴えを取り下げてくれるようだ。


「先方の教授が、ムーミン好きなら」
『…ムーミン』


それは、坂本さんにとって大事なポイントなんだろう。ムーミンを好きな教授を探すのは大変だと思うけど。それで訴えを取り下げてもらえるなら、少し不安は消える、のかな。


「おいしそうですねー」
『あれ、木林さんじゃんー』


久部くんとお肉係を交代すると、音もなくやってきた葬儀屋の木林さん。一緒にどうですか?と誘うけど、用事があるようで断られてしまった。


『そりゃ残念。あ、久部くん、このお肉焼けてるよー』
「え、や、俺、いま野菜切ってるんで…」
『んー、ほら、あーん』


焼けたお肉を何枚か紙皿に取り、熱々のお肉の一枚を久部くんの口元へ持っていく。お肉焼いたり野菜切ってたり働き者の彼は、美味しいお肉を食べ損ねるに決まってる。


『ほーら、お肉冷めちゃうよ!』
「え、あ、じゃあ、あーん、」
『ふふ、美味しい?』
「、おいひぃ、です」


お肉が熱かったのかモゴモゴしながら答える久部くん。彼が切ってくれた野菜を持って、また網のところへ戻る。


「あの2人、妙に仲良いよね」
『ん?ああ、木林さんと中堂さんですか。』


そう言う夕子さんの視線の先は、先ほどまでここに居た木林さんと、BBQには参加せずカフェテリアにいた中堂さん。確かにあの2人はよく一緒にいるところを見る気がする。


「そういう関係?」
『そういう?』
「ほっときなさいよ、ほら、東海林さん手がお留守になってる」


私の隣でお肉を焼いていた夕子さんが、はーい、と所長に返事をする。私も焼けたお肉を一口頬張りながら、中堂さんと木林さんを見つめた。あの2人はいつも何について話をしているのだろう。ふと、ミコトさんを見ると彼女も私と同じことを考えているのか。それとも、この間の烏田検事との話を気にしているのか。


「名前さん」
『へ?あ、なに?久部くん』
「ここ、焼肉のたれついてます」
『うぇ?!ちょ、どこ!!』


急にやってきた久部くんに、口元に焼肉のたれがついていると指摘される。物凄く恥ずかしくて、口元で汚れてる部分を探すけど、上手く拭き取れない。


「ここですって。…はい、取れました」


そう言って、優しく指で汚れたところを拭って、そのままソレを舐めた久部くんに、私の頬は急に熱くなる。ちょっと、なに、いまの。無意識にやってんの?


「え、名前さん…?」
『いや、ごめ、見ないで』
「あらあら、2人もそういう関係?」
『夕子さん、茶化さないでください…!』


真っ赤であろう自分の頬を押さえて、久部くんに見られないよう背を向ける。ああ、どうしよう。胸がドキドキして仕方ない。最近の私はどうかしてるんだ。



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