#29


夕子さんに鑑定してもらいたいものがあり彼女を探していると、研究フロアにいるということで、5階へと足を運ぶ。周囲をキョロキョロすると、夕子さんと久部くんの姿が。静かに近づくと2人は何やらコソコソお話中。


「あれだ、元カレ」
「元カレか…そっちか、まじか…」


落胆してるのか、よくわからない表情で久部くんは肩を落としている。一体何の話をしていたのかはわからないけど、仕事の話ではなさそうだ。夕子さーん、と声をかけると何故だかニヤリと笑う夕子さんと、ソワソワし出す久部くん。


『これ、鑑定お願いします。』
「りょーかい!」
『そういえばミコトさんも夕子さんのこと探してました。佐野さんの動脈瘤のことで』
「東海林ー!脳の動脈瘤、結局見つからなかったあー」
『あ、話をしてれば』


こちらも落胆したような表情でやってきたミコトさん。それに対して《見つからないだろうねー》と返事をする夕子さんに、何故?と目の前のPCへ視線を向ける。佐野さんの椎骨動脈の組織を見ると、


「これ、動脈が裂けてる…」
「yes!」
『つまり…外傷?』
「外傷ということは…事故の衝撃が原因で、くも膜下出血を起こした。病気では無く、」

「「「『事故死!』」」」

「そうなんだけど、」
『なにか気になるところが?』
「時期がおかしい。」


夕子さんの説明を聞いて、私たちはみんな頭を悩ませた。佐野さんの死因は外傷性椎骨動脈解離。首の後ろの骨に外から大きな力がかかり、動脈が裂けたことが直接の死因。だけど、その傷が少し古い、というのが頭を悩ませた原因だ。ミコトさんが夏代さんと共に、妻の可奈子さんへ説明しに行くことになり、私たちは各々の仕事に戻る。


『傷が古いって、どういうことだろう…』
「30日前に何かあった、ってことですよね」
『んー、どんなに考えてもわかんない』
「それに、工場長が倒れたって…」
『誰よりも残業してたみたい。社長からも今回の事件は関係ないって突き通せと脅されてたって夏代さんが言ってた』


久部くんと調書をまとめながら、佐野さんのことを考える。死因はわかったけれど、次は30日前の謎が出てきた。工場の実態も少しずつ明らかになってきたし、きっとミコトさんと夏代さんが、可奈子さんから何か話を聞き出せるとは思うんだけど。


『30日前に裂けた動脈が、皮一枚で繋がってた状態かぁ…』


その動脈が遂に破裂して、くも膜下出血が起きたのが運転中だった、という事になる。CTには写らないから、病院側の責任は問えない。事故の前の損傷なので、バイク屋は無関係。ラボの電話が鳴り、急いで出ると相手はミコトさんだった。


「三澄さん、なんて?」
『30日前、佐野さんが社長にケーキを届けに行く事になったらしいんだけど、その日帰宅したら傷だらけだったって。社員の証言も取れた。』
「もしかして、過労による居眠り運転で?」
『うん。バイクで行くことを社長本人も知ってたみたいだから、仕事中の事故として会社に賠償金請求できるみたいよ』


とりあえず責任の所存は明らかになった。だけど、事故がどこで起きたか見つけて確証を得なければ、また言い逃れされてしまうかもしれない。


『明日も忙しくなりそうだし、今日のところはこれくらいにして、もう帰ろっか』
「はい。じゃあ、家まで送ります」
『もー、久部くん、本当に心配性』
「…名前さんだから、ですよ」
『ん?…ありがと』


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翌朝から事故を証明するための手がかりを探す作業に入った。社長がパーティーをやっていた場所は佐野さんしか聞いていないらしい。


「社長のFacebookの繋がりも探したんですけど、手がかりはありませんでした」
「社長に直接聞く!」
「課長さんがもう電話してくれたんだけどさ、怪しまれて何も聞けなかったんだって」
『んー、やっぱ警戒しますよね』


ミコトさんから、かりんとうを受け取りポリポリ食べながら考える。社長がパーティーしていたと思われる場所は、きっと佐野さんが事故を起こした場所の近く。傷についたアスファルトの成分がわかれば、場所の特定もできるかと思ったけど、30日前に負った傷なら入浴などで流されている。


「あのう、あの…」
『ん?どうした、久部くん』
「古い傷の成分、体じゃなくてバイクの方だったら…残ってます」


その言葉に私とミコトさんは顔を見合わせた。そうか、体じゃなくてバイクの方なら…


『さすが!!!久部刑事!!』



座っている彼の頭をくしゃくしゃっと撫でて、すぐバイクが残っているかの確認をとる。幸い佐野さんのバイクは残っていて、すぐに向かいます、と電話口で伝え、バイク屋へと急いだ。



『よかったー、残ってたぁ』
「すいません、この傷。ブレーキ修理の時ってついてました?」
「ついてたよ」
「新しくもなく古くもなく…左肘を擦るってことは、車体の左側を下にしてコケるってことだから…やっぱ、これですよ30日前の傷!」
『すごいねえ、久部くん…』


彼自身、バイクに乗るからなのか普段よりも生き生きとバイクに触れて答えを導き出す久部くん。よーく車体を見てみると、傷の部分に色が付いている。


「オレンジ、水色、黄色…黄緑」
『こんなカラフルな地面ってある?』
「…マンホール!」
『え?』
「マンホールカード!」
「持ってるよ、それなら、俺」


聞きなれない《マンホールカード》というもの。バイク屋さんがたくさんのカードを出してくれた。マンホールカードとは下水道局と自治体が発行しているご当地カードのことらしい。


「実際にあるマンホールの蓋をカードにしたもので、全国200種類以上あるんです」
『へぇ、そんなものが…』
「ツーリング行ったついでによ、配布施設に行って貰ってくるんだよ」


そう言いながら並べられるカードを見つめる。バイクの傷についていた色と一致するものがあれば、その近くで事故が起きた可能性が高い。


「これ、西武蔵野市!」
「黄色、黄緑、水色、ピ…ピンクじゃなくない?」
『んー…オレンジですね、』
「カードになったニシムンはレアバージョンであり、通常のニシムンはオレンジ色!」
『オレンジ?!』
「はい、西武蔵野市内にはオレンジ色のニシムンのマンホールが…2000個、存在します」


2000個。あまりの多さに絶句する。そんな多い中から、傷のあるマンホールを探さなくてはいけない。でも、方法はそれしかないのだ。





「それじゃ、また明日ね」
『あ、待ってください、ミコトさん。久部くん、』
「なんですか」


バイク屋を後にして、最寄り駅までやってきた。私たちに別れを告げようとしたミコトさんを引き止めて、久部くんに声をかける。


『私、この後少し用事足してから帰るから、今日はミコトさん送って行って』
「え、でも…」
「なーに言ってんの、名前。私なら大丈夫だって」
『ダメです!あ、面会時間過ぎちゃいそう…また、明日!』


私を引き止める声が二つ聞こえたけど、足早に改札を抜ける。病院の面会時間まで、あと少し。ギリギリ間に合うだろうか、とソワソワしながら電車に飛び乗った。





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