#34




そもそも、何故こんなご遺体が盗まれて解剖することになったかというと、まず鈴木さんご夫婦は《夫婦》ではなく、同じ名字の《カップル》だったらしい。
奥さん…ではなく、彼女の果歩さんが亡くなったとご両親に連絡が入った時、鈴木さんは仕事で留守にしていた。駆け落ちして一緒になった娘が捨てられたと勘違いした果歩さんの母が娘は自殺したんだと。


「仕事を終えたら彼女が亡くなってて、実家では門前払い…辛かっただろうな、鈴木さん』
「だからと言って、ご遺体を勝手に盗むのはいけないことです」


所長から事件の概要を聞き、鈴木さんの気持ちを考えると切なくなってしまった。所長と三澄班3人のお茶を淹れて、話の続きを聞く。


「遺体を盗まれたことに気づいた木林さんが青森県警に連絡して、うちが遺体発見時の情報提供を青森県警にお願いしたことから繋がったんですよ」



近々、鈴木さんと果歩さんは入籍予定だったらしい。なのに自殺なんかするわけない、と思いたいのは当たり前のことだ。


「結局、果歩さんは自殺だったんですか?事故だったんですか?」
「まだ特定できる材料は出てなかった。」
「採取した胸腔液のプランクトン検査をして、海水じゃなく淡水だとしたら、他殺の線もありますよね」
『久部刑事、冴えてるねー』


たしかに家のお風呂場とか、川の中など別の場所で水に沈めて殺した後、遺体を海に捨てたって可能性もなくはない。推理ドラマあるある、だけど。でも、今回は自分で飛び込んだところを見ている人がいるわけで。その目撃者が嘘をついてない限り、覆しようがない。



「その目撃証言が嘘なんです!犯人は、目撃者!」
「よっ!へっぽこ探偵!」
『こら、夕子さん』
「でも、海水か淡水かどちらで溺死したかは、プランクトン検査をするまでもない」
『心臓血の電解質濃度ってどうだったんですか?』
「左の方が濃かった。」


と、言うことは、やはり海水での溺死。海水で死んだら、左心血の電解質濃度が上がる。逆に淡水で溺死したら、電解質濃度は下がるのだ。


「つまり、果歩さんは海水で溺死した」
「へっぽこ探偵、撃沈!」
「へっぽこ言うのやめて下さい」


念のため胸腔液のプランクトン検査をしてみても良いかもしれない、という話になると所長が辞めるよう声を上げる。元々このご遺体は解剖しちゃいけなかったのだから、所長がそう言うのも無理はない。


「遺体番号…」
「666番」
「オーメン!オーメン!」
『…なんですか、それ』
「知らないんだ…」
「知りません」


私と久部くんが、ポカンとするもんだから所長はしょんぼりしてしまった。666番は欠番として処理するらしい。でもごめんなさい、所長。本当は666番と記された肺が保管庫にひっそりと保管されてます。なんて言えない。所長は明日から理事会や保健所などへの言い訳で忙しいそうだ。


「二度と同じようなことが起きないように、対策をまとめないと。みなさん!資料制作、手伝ってください!」
「あれ?あそこ汚れてるー」
「久部っち、検査手伝えるー?」
「え?あっ、手伝います!」
『あっれ、また中堂さんどっか行っちゃったなあ、探さなきゃ』


各々言い訳をしながら、オフィス内の会議室を出て行く。所長の声が聞こえるけど、お構い無しに自分のデスクへ戻ろうとした時、研究所の所員の方が中堂さんを訪ねてやってきた。一番近くにいたミコトさんが対応するけど、様子がおかしい。あれ、ちょっと待て、もしかして、


『ああああ、ミコトさん…!』
「名前、これ、どういうこと?!」
「どうかしました?」
『うわああ、ビックリしたあ!』
「何にも問題ないです、お疲れ様です」


ミコトさんが所員から受け取ったのは、果歩さんのご遺体の資料。遺体番号がふられていないので決済できないと戻ってきたのだ。中堂さんのバカ…!なんで内部で鑑定するのよ!


「ちょっと、名前、きて!」
『ああ、ミコトさん…これには訳が…』


所長を振り切り、ミコトさんにオフィスの外へと引っ張られる。理由を説明しようとした時に、エレベーターから出てきた中堂さんの姿を見つけて、ミコトさんは慌てて問いただしに行った。


「ちょっとー名前、そこ避けてー」
『え、ああ、夕子さん、すみません…』
「名前さん、どうかしました?」
『なんでもない…』


さっそくミコトさんにバレてしまった。ああ、もうあの2人がバチバチやり合うのは目に見えてる。これからのことを考えると頭痛がして仕方ない。これも全部、中堂さんのせいだ!!




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