#35



プランクトンの検査結果は、海水の成分が検出されたものの、特にめぼしいものは出てこなかった。それを知った中堂さんは現場の海水との比較が必要だ、と調べる気満々。



「あれ、名前さん、クーラーボックスなんてもって、どこいくんですか?」
『あー、いや、ちょっとね』
「どうしたんすか、そんなキョロキョロして」
『いや、ほら、現場調査!行ってくるわ!』



ミコトさん以外の人にバレないよう、ひっそりとクーラーボックスを手に現場調査へ行こうと思ったら、久部くんと出くわしてしまった。彼に嘘をつくのは気がひけるので、なんとか誤魔化して、エレベーター前で待ってる中堂さんの元へ急ぐ。久部くんが、私たち2人をじっと見てたことも気づかずに。



『ここが、現場ですか…』


果歩さんが飛び込んだとされる、港まで来た。天気が良いとは言え、港は案外寒い。厚着してこればよかった…と後悔しても遅いから、体を動かして温めなくては。



「中堂さん!お待たせしましたー!」
『あ、県警の方ですね』



青森県警の方が港まで来てくれて、色々とお話を伺う。中堂さんの指示で、まずは飛び込んだと思われる、この港の海水を採取した。


『っへっくしゅん!!!』
「…なんだ、そのくしゃみ」
『あー、すみません。平気です』



さすがに、ずっと港にいると寒さを誤魔化しきれない。豪快にくしゃみをすると、中堂さんが引いた目をして見ているのがわかった。仕方ないじゃない、寒いんだから。


「これ、着てろ」
『わっ、え、パーカー?』


顔にばさっと何かがかかったかと思えば、それは中堂さんがいつも着ているパーカーで。寒い、ということが彼にバレてしまったのだろう。次は下流行くぞ、と言われ慌てて立ち上がる。


『中堂さん、ありがとうございます』
「俺のせいで風邪ひいたって言われても迷惑だからな」
『へへ、だいじょーぶですって』


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無事に現場調査を終えて、ラボへ戻ろうとするとバイクの駐輪場へ向かう久部くんと遭遇した。


『久部くん、おつかれー』
「あ、名前さん。今帰ってきたんですか?」
『うん、そーなの。思いのほか時間かかってさ。』


ちなみに中堂さんは何やら寄るところがあるそうで、寄ってからラボに戻る、ということで私は一足先に帰ってきた。



『ミコトさんと夕子さんは?』
「三澄さんは、まだオフィスで、東海林さんは帰りました」
『そっか、ありがとー』

「…あの、名前さん」
『ん?』


じーっと私を見つめながら、険しい顔をしている久部くん。どうしたんだ、と思えば、気まずそうに目を逸らしながら遠慮がちに声をかけられた。


「そのパーカー…中堂さんの、ですよね」
『ん?ああ、これ?うん、中堂さんの』
「…あー、はい、いや、別に、良いんですけど、」
『え、どうしたの、久部くん』
「いや、良くはない…か、うん」


片手で頭を抱えながら、何やらブツブツ言ってる彼に戸惑う。それにしても、中堂さんのパーカーは大きいから、袖を捲っても全体がダボっとしている。このパーカーのおかげで寒さはしのげたから、ありがたいけど。



『あ、中堂さん!』
「え、」


ふらふらーっと私たちに声をかけようともせずラボに入って行く中堂さんを見つけ、久部くんに慌てて声をかける。


『じゃあ、お疲れ様!』
「…おつかれさまです、」


バタバタと中堂さんの元へ走り、なんで声かけてくれないんですか!と一言言ってから横に並ぶ。中堂さんの手にはコンビニの袋が。チラッと隙間から見えた私の好きなサンドイッチとコーヒー牛乳。中堂さんって本当に不器用な人だ。さて、あと少し頑張るとしますか!





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