『ん…』
いつのまにか寝てしまったのであろう。少し頭がいたい。身動きが取れないので、少し身をよじると目の前には久部くんの寝顔が。びっくりして酔いも目も覚めたけれど、彼の腕にがっちり掴まれているので、これ以上動きようがなかった。
「ヘルプどころかクソも役に立たねえ、こいつら」
ガサゴソとゴミを漁る音と、中堂さんの声。私たちが散らかしたゴミを集めてくれているのだろう。彼らの方からは私の姿が見えないので私が起きていることも気づいていなさそうだ。
「あ、絵本だー。中堂さん、この絵本読んでも良いですか」
「好きにしろ」
ミコトさんの声がして、彼女も例の絵本を見つけたらしい。きっと作者の名前にも気づいただろう。
「知らないだろ、マイナーだからな」
そう言う中堂さんの声は、なんだかいつもより優しい気がして胸が痛む。彼はずっと亡くなった恋人が作った、その絵本を大切に持っていたんだ。
「俺にはわからん、いい絵本かどうか。…そいつに才能があったのか、なかったのか」
寂しそうに話す中堂さんの心の中心には、いつもその彼女がいる。8年前からずっと、永遠に続く問いを投げかけているんだ。なぜ。どうして、と。
「中堂さん、何か…何か出来ることがあれば、…法医学者として、何か出来ることがあれば、」
「…今やってる」
ミコトさんが言った言葉に、普段とは考えられないくらい柔らかく返事をする中堂さん。今、私からは見えないけれど、きっと優しい顔をしているんだろう。恋人といた時は、そういう表情もできていたんだと思う。ミコトさんが言ったように、私も何か出来ることがあれば…
「ん、」
『わ、』
想いを馳せていると、急にぎゅっと抱きしめられていた腕の力が強くなる。中堂さんとミコトさんの話を盗み聞きしてしまって、忘れてたけど。私は今、久部くんに抱きしめられているのだ。うわ、やば、心臓の音が。少し距離を…と思っても尚更強い力で抱きしめられるもんだから、小さく息を吐いて諦める。このまま朝を迎えるとか…私、絶対寝れない。
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『ん、』
眩しさで目を覚ます。完全には覚醒できなくて、ぼーっとする頭をなんとか動かす。ああ、眩しい。なんだ、眠れないとか思いつつ普通に寝てるじゃないか。ふぁ、っと欠伸をすると、隣からも寝ぼけた声がした。
「んん、あたま、いた…」
『…だいじょうぶ?』
「だいじょうぶで、…え、名前さん?」
二日酔いのせいで頭がいたいのか顔をしかめていた久部くん。私とバッチリ目があって、目を丸くしている。そりゃそうだ、この至近距離。いまだに私は彼に抱きしめられている状態なのだし。
「え、あれ、おれ、え」
『ん〜おはよ、腕とか身体、痛くない?』
「え、大丈夫です、あれ…あ、そうだ、ここ」
中堂さんの家か…と、周囲を見渡して状況を把握したらしい。そっと彼の腕から脱け出し、一つ伸びをする。ずっと腕枕してくれてたから、久部くんは辛かったに違いない。なんだか気恥ずかしくて彼と目を合わすことが出来ず、立ち上がる。
『あれ、中堂さん、ミコトさんは?』
「警察に事情説明しに行った」
『ってことは、結果出たんですね?』
お前らが酒盛りして爆睡してる間にな、と言われて謝るしかない。そう言いつつもコーヒーを淹れてくれて、受け取る。中堂さんがコーヒーを淹れてくれるなんて貴重だ。まだ横になってぐだっている夕子さんを叩き起こして、みんな一度自宅に戻ってからラボへ出勤することとなった。
『二日酔いにはー…しじみの味噌汁だよね、うん』
自宅に戻り、軽くシャワーを浴びると身体がスッキリした。一度目覚めたのもあって、私の二日酔いはそう酷くもないけど、夕子さんと久部くんは辛そうだった。2人のためにも、と簡単に味噌汁を作って保温マグに入れていく。ラボに着くと、私が最後に到着したらしく、何故か慌ただしくオフィスを出て行った中堂さんとすれ違う。
『え、どうしたの、中堂さん』
また何かあったのだろうか。今来たばかりの私にはよくわからないので、オフィスに入ると、PCを見つめてる久部くんと、まだ二日酔いと戦っている夕子さんの姿。
『夕子さーん、大丈夫ですかー』
「きもちわるい〜」
『しじみの味噌汁作ってきたんで、飲めそうなら飲んでくださいね』
一言声をかけてから、久部くんが見ているPCを覗き込む。何これ?と聞くと、青森医大から送られてきた果歩さんの死後CTらしい。え、死後CT撮られてたんだ。画像をじっと見て、不可解な点に気づいたのは、ミコトさんがオフィスにやってきたのと同時だった。
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