#4


『久部くん、ちょっとおいで』
「え、名前さん?」
『ほら、良いから』
「え、え、」


戸惑っている彼の首根っこを捕まえて、ラボの使われていない部屋へと足を進める。ドアを閉めて、急に連れてこられて困惑してる久部くんに座るよう促して一息ついた。


「あ、あの、名前さん、」
『なに?』
「えっと、あの、怒って…ます?」
『うん、これからお説教します』
「え、」


事の発端はこうだ。今日も朝から次々と解剖の記録を取り、やっと時間が出来たので軽くシャワーを浴びデスクへ戻ってきた時、疲れた様子のミコトさんが愚痴をこぼしていた。久部くんが、例の婚約者さんを疑っているかのような行動に出たと。どうにかしてよ、指導者は名前でしょ?と少し検討違いの言葉を私に浴びせてから、ぐったりした様子でミコトさんはシャワー室へと向かっていったのだ。


『私達はあくまでも死因を特定するのが仕事。探偵や警察ごっこはするべきじゃないよ。』
「でも、俺、どうしても気になって」
『そりゃ、第一発見者で毒物を使用できる環境にある彼女が疑わしい、っていうのもわかるけどさ、』
「婚約者が亡くなったっていうのに、こう、なんて言うか、淡々としてて」
『元々そういう人なんじゃないの?』
「それ、三澄さんも言ってました…」


私に怒られて、少ししょんぼり顔の久部くんを不覚にも何だか可愛いと思ってしまう。自分で怒っておいて何だけど。彼には彼なりに思うところがあるらしいけど、私たちに出来ることは限られてる。


「名前さん、言ってたじゃないですか」
『ん?』
「最期は愛おしい人のことを思い出すんじゃないかって。愛おしい人の冷たい姿を見たときどんな思いなのかって。」
『ああ、言ったね』
「あれから想像してみたんです。愛しい人の最後の姿を見た時のこと。それを思ったら、なんで彼女はあんなにも冷静なんだろうって思っちゃって。」


だからといって踏み込みすぎも良くないですよね、すみません。と頭を下げる彼をぼーっと見つめた。私の言葉がきっかけだったと知らされると、なんと言うかこれ以上怒ることも出来なくて。


『まあ、程々にさ。死の原因を特定するのが第一、ってことを忘れないようにしてね。』
「はい、」
『そういえば愛しい人の最期、想像したって言ったよね?』
「え?あ、はい、」
『久部くんにとっての愛しい人、って誰?』


え、え、とまた目をキョロキョロして挙動不審になる久部くんが面白くて、先程のお説教タイムとは真逆の空気が流れた。なんだか久部くんの行動を観察するのは面白い。7kで大変な仕事の中に癒しを見つけたかもしれない。






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