#5


ふあ、と欠伸をしてから目の前のドレッサーで髪を整える。数日ぶりの休日。だけど、今日は休日であって休日ではない。身支度を終えて、歩きやすいスニーカーを履いて、目的地へと急ぐ。



『やっほー、久部くん!』
「え、なんで名前さんが…?!」
『私にお説教されても懲りない後輩くんのお供しようと思って』


私の姿を見つけてバツが悪そうな顔をする彼。今日の目的地は、例の婚約者さんが働いている職場だった。夕子さんからの《久部くんがまだ探ってる》との情報を得て、今日あたり行動するだろうと思い先回りして待ち伏せしていたのだ。


「すいません、でも、俺、」
『はいはい、もう良いから。気になるんでしょ?それならとことん調べようよ』
「良いんですか?」
『そのかわり、失礼のないようにね』


会社の受付にラボの人間だと伝えると、以前も久部くんを案内してくれた、という方が出迎えてくれた。死の原因となるものは何なのか。少しでも情報が欲しいのは久部くんだけではなく、ラボにいる人全員だと思うから。私に出来ることならやらなくては。


「え、このクッキー貰い物じゃないんですか?」
「ええ、彼が出張先の土産として買ってきてくれました」


怪しいと思われていたクッキーは、亡くなった男性が出張のお土産として買ってきたものだったらしい。ゆかりんと彼が同じクッキーを持っていたので怪しいと思い鑑定してもらっていたはずだ。社内で色んな人から話を聞き、会社を後にする。外はあっという間に暗くなっていた。


「名前さん、家どこらへんですか?」
『ん?』
「暗いんで、送りますよ」
『いやいや良いよ、大丈夫』
「ダメですって。それに今日1日休みなのに付き合わせちゃいましたし」
『それは、私が勝手にしただけだよ』
「それでも。こんなに暗いのに女の子1人で帰せないですよ」


《女の子》と呼ばれる年齢でもないことくらい自分が一番わかっているというのに。不覚にもキュンと来てしまった自分が憎い。大人しくヘルメットを被り後に跨る。結局私の自宅ではなく二人で一旦ラボに戻ろうということになった。ま、私の自宅はラボから徒歩圏内だから変わりないけど。


「ちゃんとくっついてて下さいね」
『はーい』


控えめに久部くんの腰あたりを掴んでたら、そんなんじゃ飛ばされますと言われ、ぐっと引き寄せられた。ダメだ、私どんだけ男の人に対して免疫なくなってるんだろ。こんなちょっとしたことで、ドキドキしてるようじゃ、ろくな恋愛出来ないじゃないか。


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「お疲れ様です」
「おかえりー、久部刑事。捜査どうだった?…って、名前も一緒だったの?」
『久部刑事が暴走しないように監視役として』


暗くなったデスクにはミコトさんが一人。所長室をチラッと見ると、ブラインドが閉められていて、中堂さんがいるとすぐにわかった。クッキーからは何も出なかったというミコトさんの言葉に、やっぱりなあと残念な気持ちになる。


「二人が出来てるってのも馬鹿みたいな話です」
『高野島さんの風邪がゆかりんに移ったみたいで、そこから噂されたみたいですよ』


クッキーの入った袋を見つめてるミコトさんに近づく。パッケージの裏の外国語がチラッと見えて、あれ?と何か違和感を覚えた。それはミコトさんも同じだったようで、久部くんに、風邪っていつ?出張先は?と質問をしていた。


「サウジアラビア」
『あれ、ちょっと待って、そういえばサウジアラビアって…』


ミコトさんが目の前のPCを操作して、海外の症例がたくさん出てくる。もしかして、私達が導き出した答えは、とんでもないものかもしれない。



「稀な偶然でも、毒殺でもない…死因は別にあった」


そこからの行動は早かった。高野島さんの死因はMERSの可能性が高い。ラボ全体に伝えると所長や夕子さんが慌ててやってきた。これから大変なことになりそうだと、みんなバタバタしている中、


「あの、」
『なに?久部くん』
「MERSって…火星?」


「『はあ?』」


ここまでくると、知識がないと言うよりは、ただの天然なんじゃないか。症例をコピーした資料を、久部くんにこれ読んでおいて、と渡すと「英語…」と、また不安そうな顔をして見返されるものだから、こっちが不安倍増させられてしまった。



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