#42



中堂さん、ミコトさん、私の順で所長室のソファーに座り込む。目の前にはプンプン怒っている所長。


「刺された女性が一命を取り留めたから良かったようなものの、もし死んでたら、UDIラボが復讐殺人に加担したことになるんですよ。わかってますか!」
『はい、すみません…』
「私達は分かっています、分かっていないのはこの人だけです」



刺々しく中堂さんを指摘するミコトさんに対して、中堂さんも反応を示す。ああ、なんだか学校の先生に怒られてる気分。


「三澄さんだって、私に内緒で検査進めてたでしょ!」


そう言われて、しょんぼり顔のミコトさん。遠くでこちらを見ながらコソコソ話をしている夕子さんと久部くんを恨めしそうに見るけど、2人は知らんぷり。今後、依頼解剖において、事件性があると判断された場合は速やかに警察へ届けること。依頼主もしくは遺族への説明は警察に判断を委ねること。を、所長から忠告される。



『ああ、疲れた、』
「お疲れ様です」
『久部くん、さっき夕子さんと2人でコソコソ話してたでしょー』


薄情者ー!と言いながら肩を軽く叩く。まあ彼は顕微鏡を届けてくれただけで、私たちに巻き込まれたようなもんだから仕方ないけど。



「さすがにミコトさんも凹んでましたね」
『…あ、うん、』


ちょっと、待って。久部くんはいつからミコトさん、と呼ぶようになったのだ。いつ、って昨夜しか無いだろうけど。ちゃんと平気な顔、出来てたかな。昨日、私の元に来てくれるまで2人きりで駅まで帰っていた時に、どんな会話をして名前で呼ぶことになったのか、モヤモヤした気持ちが湧き上がる。



「名字」
『なんですか、中堂さん』
「不細工な顔して、そんなとこ突っ立っつな。邪魔だ」
『…それは、普段可愛いのに不細工な顔してどうしたんだ、という解釈で良いですか?』
「バカが。」


ふっと、鼻で笑われて「報告書かいておけ」と一言。顔にバシッと叩きつけられた一枚の紙は、今回の件でラボにご迷惑をかけた報告書。気持ちを切り替えて、1日の仕事をやりきろう、と報告書を書くためにデスクのペンに手を伸ばすのだった。


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「まさかミコトがああいう男が好みとはね」


無事に勤務も終わり、女子ロッカー室内で繰り広げられた会話の最初は夕子さんのこの一言だった。


「ああいう男?」
「中堂」
『え、中堂さん?!』
「ちょっと待って!」
「好みでもなきゃ、あんなに面倒臭くて態度悪くてクレイジーな男に関わらないでしょ」


確かに中堂さんは《クレイジー》だとは思う。ミコトさんは何を思い出しているのか、困った顔をしてロッカーに身体を預ける。


「まあ、わからなくも無いんだよなあ…」
「共感は恋への第一歩!」
『なるほど。』
「せめて六郎にしておきなよ」


そういった夕子さんに私はドキリ、としてしまって平静を装うためにジャケットに手をかけた。魅力は薄いけど、人畜無害。凄い言われようだよ、久部くん。



「それ褒めてんの?貶してんの?」
「そうなると三角関係か…いや、ダメだ。六郎は名前だもんね」
『え、?!』
「そうだよ、東海林。久部くんは名前でしょ」


2人してニヤニヤしながら私の方を見る。いや、何で急に私の名前が出てくるんだ。


『な、別に、久部くんとは何も…!』
「焦っちゃって、怪しーい」
「中堂さん家で酔いつぶれて一緒に寝てたくせにねー」


ミコトさんが言った日の光景を思い出して、思わず頬を染める。酔ってたとはいえ、腕枕されて一晩そのまま眠ってしまったのは今思い出しても恥ずかしい。


『とにかく!私のことは良いんですってば』
「じゃあ行こうか、異性間交流会!」
「行きません、合コンは」
『私もパスです』


相変わらず夕子さんは異性間交流会に参加しているらしい。今日のは彼女がいっている高級ジムの飲み会だという。


「高級ジム?」
「そういうとこのが危ない人いなくて安心じゃん」
「あれか、例の月会費5万の」
『5万?!高っ!』


夕子さん、どんだけリッチなんだ。浮かれ気分で鏡に向かっておめかししている夕子さんはとっても可愛いけれど。きっとお金持ちの集まりだろうな、と思いながら私もリップクリームを塗る。


『じゃあ、夕子さん楽しんでくださいね。お先に失礼します!』


身支度を終えて、先にロッカー室を出る。今日は久しぶりに定時で帰れたしスーパーに寄って晩御飯の買い物でもしようかな。




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