院内にあるテレビのニュースを静かに見る。プロジェクターの部品に仕様のものとは違うものが混濁し、電源コードが発火する事故が相次いでいる、との内容。雑居ビル火災も、このプロジェクターが原因で起きたものとみられるらしい。
「放火じゃなくて発火事故」
《そう、しかもロープの痕は通称、子豚搬送と言われるものだった》
『子豚搬送…?』
電話口でミコトさんから聞きなれない言葉を伝えられる。子豚搬送とは、消防士が使う動けない人間を救助する方法らしい。11番さんのロープの痕は火傷してからついたもの。つまり、動けなくなった11番さんを、
「町田さんがロープを背負って」
「『助け出した、』」
「じゃあ、町田さんの後頭部の骨折は?」
《まあ、放火じゃなかったわけだし火災の混乱の中で起きた何らかの事故かもしれないね》
火災現場に行って原因を特定したいところだけれど、天井崩落の危険があって立ち入り禁止になっている。わかりました、と言ってからミコトさんとの電話を切り、町田さんが写っている写真を六郎くんは眺めていた。
「名前さん、」
『ん?』
「ちょっと、付き合ってもらいたい場所があるんですけど」
『ふふ、お伴しますよ』
何か決意したような顔つきをしている六郎くんに微笑む。すぐ帝日大を後にし、彼のバイクで向った先はゴミ屋敷。もしかして、ここは、あの屋敷さんのお宅なのか。バイクを降りると、すぐ駆け足で庭に入っていった六郎くんの後を追いかける。
「神倉さん!消防局に連絡してもらえませんか?火災現場の写真、全部見たいんです!」
縁側でコタツに入りながら将棋を指していた、神倉所長と屋敷さん。私は噂の屋敷さんとお会いするのは初めてだ。
「うちには、遺体周りの写真だけで。でも、消防の撮った写真、全部調べれば何か写ってるかもしれない」
六郎くんの勢いに驚いているのか、口を開けたまま話を聞いている神倉所長を私もジッと見つめる。
「ろくでもない息子を生き返らせることはできないけど。でも、バチで死んだと思われたままじゃ、町田さん、帰っても肩身が狭いです」
「…わかりました、すぐに連絡します」
『よろしくお願いします』
所長が消防局に連絡するため、席を立つ。遅くなったけれど、屋敷さんに挨拶をすると、ニコッと笑って返してくれた。
「お嬢ちゃんは、初めましてだね」
『はい、名字名前と言います』
「僕の彼女?」
「え、あ、え、…いや、」
「僕、若いのにさ。所長みたいなこと言うね」
「え?」
『所長みたい?』
屋敷さんが話してくれた。所長が屋敷さんの奥様、美代子さんの遺骨を持ってやってきた日のこと。バチが当たった、と言った屋敷さんにそんな事言わないでくれと。
「俺がろくな亭主じゃないから。神様から取り上げられたんだって言ったらさ、」
美代子さんはくも膜下出血で亡くなった。誰のバチでもない。死ぬのに良い人も悪い人もいない。私たちはたまたま生きている。そんな私たちが死を忌まわしいものにしてはいけない、と。
「そう言われてさ、俺もあんまり意地張ってちゃしょうがねぇと思ってさ。所長が将棋に勝ったら、受け取ってやろうと思ってんだよ。ところがさ、おたくの所長弱いんだよ」
僕どうする?と言う屋敷さんの声。こたつテーブルの上に置かれた将棋盤を六郎くんがチラッと見てから、屋敷さんの前に座った。私はそこまで将棋に詳しくはないから、そっと横から見守る。
「俺、勉強したくない時、めっちゃ将棋やってました。ネットゲームで」
「いや、ゲームと一緒にすんじゃないよ」
将棋盤を見てから、六郎くんが駒を指す。屋敷さんも続けて指し、また六郎くんの番。何度かパチパチと駒が指される音が続き、屋敷さんが指したあとにニヤリと笑った六郎くんに、少し胸が高鳴ったのは内緒だ。良いところに指したのか、屋敷さんが、むっと声を出しつつも、将棋を指す。すかさず、また六郎くんの手が動き、屋敷さんはんんーっと苦しそうな声をあげた。
「久部くん、名字さん、話通したから、いってらっしゃい」
『ありがとうございます!』
「行ってきます。屋敷さん、またやりましょう」
「気をつけてな」
屋敷さんにお辞儀をして、またバイクへと乗り込む。向かうは消防局。きっと、何かの手がかりになるものが見つかるはずだ。
『ご協力いただき、ありがとうございました』
「ありがとうございました!」
消防局の方にお礼を言って、すぐUDIへと向かう。大量の写真を持ち帰り、さっそく会議室でめぼしい写真を探す。
『んー、これとかは?』
「いや、これじゃちょっと違う?」
「あ、これは?これ、」
ミコトさんが見ていた写真を見ると、傷の形状と一緒のものが写っていた。これが本当に傷と一致するのかは現場を見てみなきゃわからない。と、なると協力が必要な人物がいるわけで。私は会議室から離れ、その人物に連絡を取る。
『今、連絡取って協力してもらえるそうです。今夜、現場行ってきます』
「協力って、もしかして」
『毛利さん。他の刑事さんには秘密なので、少しの時間だけ。』
「名前1人じゃ何かあった時危ないし、六郎も連れてきなよ?」
「勿論、一緒についていきます」
日が沈み、辺りが暗くなった頃雑居ビルの前で毛利さん達と合流する。ペンライト片手に、焦げて煤だらけの雑居ビルへと入って行った。
「10分だけだからなー。バレたら俺の首が飛ぶんだからよ」
「本当に全部、毛利さんのおかげです」
「え?なに?もう一回言って?」
『毛利さんのおかげです』
「そうだろぅ?」
夕子さんから預かってきたルミノール液を吹きかけて、血痕を探す。やはり、先ほどの写真に写っていたもののところには血痕があった。それはスナック前の階段の手すりで。
「…わかった、」
六郎くんが持っていたライトがスナックの扉を照らす。手すりの部分に後頭部を強打したと思われる町田さん。考えられることはただ一つだった。
← → >> list <<