#67



検査室にみんな集まり、検査の結果を待つ。作業の完了音が鳴り響き、夕子さんの元へ。


「薬毒物検査の結果、200種類どれも引っかからず」
「ニコチンは出ないか」
「出てません」
「胃の内容物は?」
「腐敗で分解が進んでよくわからないけど、成分からすると加工肉」
『加工肉ってことは、』
「ソーセージとかですかね」


胃の内容物が異様に腐っていたのは何故か。細菌が腐敗を早めた可能性もあるし、腐った食べ物を食べさせた可能性もある。色んな手段で人を死に追いやった犯人だ。殺しを楽しんでいるとしたら、なんでもアリだと中堂さんは言う。



『それじゃあ、細菌検査も必要ですかね』
「うん、死因に関係しているかもしれない」
「培養して調べてみる」
「最短で何日だ?」


焦っている様子で夕子さんに聞き出す中堂さんの姿に、みんな戸惑いを隠せないでいた。夕子さんが気まずそうに、最短でも3日かかると告げると、少し間をおいて「頼んだ」と言ってから中堂さんは検査室を後にした。


「…とりあえず、東海林、検査よろしく」
「うん。っていうか、本当調子狂う」
「そう、ですね」


中堂さんが出て言った方向を見ながら、各々思うことは一緒で。ここ数日は、呼吸をするのが重いくらい雰囲気が暗い。


「よし!こういう時こそ、食べよう!ご飯、ご飯!」
「良いこと言った、ミコト!お昼行こう!ほら、六郎と名前も!」


そう言った夕子さんの言葉でパッと顔を上げると、ばっちり六郎くんと目があってお互いに固まる。六郎くんとも必要最低限の仕事の事しか話をしていないし、彼も彼で忙しいのか進展なし。呼吸をするのも辛いのは、きっとこの件もあるからだ、と私は勝手に思ってる。



『…わたし、中堂さんが心配なので少し見てきます、』
「ええ、一緒に食べないの?」
『この鑑定書、中堂さんに返すの忘れてたんで、渡し次第合流します。先行っててください』


残念そうにしているミコトさんに一言告げて、私も検査室を出る。決して六郎くんと気まずいから、という理由ではない。いや、少しあるけど。今は自分のことよりも中堂さんが心配なのだ。


「ねえねえ、六郎」
「はい?」
「名前となんかあった?」
「えっ?!」
「あ、その感じ。怪しい〜」


夕子さんとミコトさんに挟まれて、焦っている六郎くんと同時刻。私は中堂さんを探して歩き回っていた。


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『…また解剖室にいたんですか』
「俺の勝手だ」


その《勝手》に振り回されている部下の気にもなってほしい。そんなこと言っても、彼を探し回っていたのも私の《勝手》だから意味がないことを知っている。もうとっくにお昼を食べる時間も過ぎてしまった。


『何かわかりましたか?』
「いや」


簡易マスクとエプロンを脱ぎ捨てて、ため息をつく中堂さん。一緒に解剖室を出て、オフィスへと向かう。その間は、勿論無言だ。オフィスにつくと、中堂さんは早々と所長室へと入って行った。


「あー、名前。遅いから先に食べ終わっちゃったよー?」
『すいません、色々と用事重なっちゃって』
「お昼まだなんでしょ?そういえばラボのすぐそばで、名前の好きなサンドイッチ屋さん、ワゴンできてたよ」
『え、本当ですか?ちょっと買いに行ってきます!』


財布を片手にオフィスを抜け出す。お腹がぐぅっと鳴ったのがわかった。ミコトさんから有力情報をゲットし、すぐ外へと出るとサンドイッチ屋さんのワゴンを見つけた。お気に入りのミックスサンドとコーヒーをテイクアウトしてラボへと戻る。





『あれ、六郎くん…?』


遠くから見える紺色の姿。見間違えるはずない。あれは六郎くんだ。彼は焦った様子で、ある男性に近づいて。六郎くんは周囲をキョロキョロ見渡していて、少し離れた場所にいる私の姿には気づいていないようだった。




『…なぁんかなぁ、』


六郎くんと一緒にいた男性が彼に茶封筒を押し付けて、何かを問いただしている。そして、2人はそのままラボの外へと出て行ってしまった。たまに六郎くんの行動が読めない。というか、なんだか違和感をずーっと感じていて、誤魔化していたけれど。


『…何もありませんように、』


ここ最近、本当に神頼みだ。神様が本当にいるなら、お願いだからこの違和感が私の勘違いでありますように。目を一度ぎゅっと瞑ってから、ゆっくり開き、一歩踏み出した。




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