#79


夕希子さんのお葬式は、彼女が高校までいたアメリカのテネシー州で行われ、ご遺族の希望で日本で火葬せず、エンバーミングされて海を渡り、現地で埋葬されたことがわかった。テネシー州には、まだ夕希子さんのご遺体がある。8年経った今の技術なら、当時見つけられなかった犯人に繋がる証拠が見つけられるかもしれない。



『中堂さん、この鑑定書。誤字だらけです』
「ああ、そうか」
『ああ、そうか。じゃない!!もう!しっかりしてください!!』


夕希子さんのご遺体を日本に持ち帰るため、神倉所長は飛行機で飛び立った。外務省ルートからの根回しが必要で、烏田検事に事情を説明してもらい、急いでいるんだけれど。中堂さんは、あれから心ここに在らずだ。


『あと、これ。この写真整理終わりましたか?』
「なんで俺が写真整理なんぞしなきゃならないんだ」
『仕方ないじゃないですか、私1人でなんて無理なんですから』
「俺じゃない、もっと暇なやつに頼め」
『中堂さん?数日前のこと、忘れたんですか?』
「…クソ!」



数日前、宍戸 理一を毒殺しようとした中堂さんは、あの日から私の言うことをよく聞くようになった。決して脅してるわけじゃない。私たちにどれだけの心配をかけたのか、あの後懇々と説教をしたら、彼も悪かったと思ったのか素直に行動することが増えたわけで。



「中堂先生が素直なのは、少し気味が悪いですね」
『毛利さん、今の中堂さんが素直に見えました?』
「ええ、以前よりかは」
『それより。宍戸が殺害現場にいた証拠は、まだ出ませんか?』
「今も引き続き、現場を隅々まで捜査してるところです」


高瀬の取り調べの様子や、捜査の進み具合について、毛利さんがUDIへとやってきて、話をしにきてくれている。宍戸が殺害現場にいたという証拠が何か出れば、彼も罪に問うことができる。


「まぁ、糀谷夕希子さんのご遺体が無事に帰ってきて、再解剖して何か分かれば良いんですがね」
『えぇ、そうですね』
「我々は、我々の仕事を全うします」
『…毛利さんって、たまにカッコ良いこと言いますよね』


そう言った私に、目を丸くしてから照れくさそうに笑う毛利さんに、私も笑みを浮かべる。捜査に戻ると言うので、その背中を見送ってから、目の前でPCと睨めっこしている中堂さんに視線を戻した。



『中堂さん、写真整理、進んでますか?』
「…PCが思うように動かん」
『中堂さんってPC苦手ですよね』
「こういうの得意なバイトでも連れてこい」
『…それって、』
「いつまで経っても俺が写真整理手伝わされたらクソも仕事が進まねぇからな」



"こういうの得意なバイト"が誰を指しているかなんて明らかだ。思わず頬が緩む。中堂さんは、目頭を押さえながら、コーヒーカップを手に取り、所長室へと入っていった。


『もう、まだ終わってないじゃないですか』


中堂さんが入っていた社長室に向かって声をかけても、反応が返ってくることはない。それにしても、普段の解剖に加え、書類整理や写真整理、雑務など1人でこなすには無理がある。本当に"こういうのが得意なバイト"が必要だな、と目の前にあるチョコレートを一粒かじった。



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『はい。あ、神倉所長!』


UDIの電話が鳴り、急いで受話器を取ると相手は神倉所長。私が呼んだ名にオフィスにいたみんなが反応する。夕希子さんのご遺体が到着したことを知らせる電話だ。



『夕希子さんのご遺体、到着しました』
「…ああ」


彼女の再解剖を執刀するのは、ミコトさん。勿論中堂さんは関係者なので、執刀することはできない。再解剖に私もミコトさんの助手として、一緒に執刀することになっていた。



『中堂さん、いつか言ってましたよね』
「なんだ」
『夕希子さんに、もう一度会えたら聞くって。』
「…お前を殺したクソ野郎は一体誰なんだ、」
『聞きましょう。夕希子さんに』


マスクをつけて、頭の後ろでキュッと結ぶ。中堂さんにとっては、8年ぶりの再会だ。心なしかミコトさんも夕子さんも緊張気味に解剖室へと入っていった。


「ご遺体は8年前亡くなった糀谷夕希子さん。ご遺族からの依頼に基づき、犯人に見つかる証拠を見つけ出すため…再解剖を行います」


夕希子さん。どうか、貴女の愛しい人からのメッセージが届いていますように。私が、法医学が、貴女のメッセージを愛おしい人に届けます、必ず。



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